役に立つ経済学 大嶋正治BOIアドバイザー
第16回 ・ 第17回 チャイナ+ワンは何処へ 大嶋正治BOIアドバイザー
先月財務省により2013年上期の国際収支統計が発表されました。8月11日には日経新聞に「日本企業の海外投資、アセアンシフト鮮明、(投資額は)中国の2倍に、上期1兆円、拠点を分散」の大きな見出しが躍りました。かって「世界の工場」と呼ばれた中国には、日本だけではなく欧米の企業が大挙して生産工場を移転しました。その原動力は豊富な人材と安価な労働コストでした。しかしながらその安価な賃金も徐々に上昇に転じ、2006年頃からは繊維業をはじめとする労働集約的な業種がさらなる低賃金を求めて、ベトナムやバングラデッシュへ移転をはじめ「チャイナ+ワン」と称されるようになりました。
2012年に至っては反日運動が活発となり、政治的リスク回避を目的とする工場移転が目立つようになってきました。従って以前は輸出専業・国内市場向けとも中国で生産していた製品の内、国内市場向けだけを残し輸出専業の業種はアセアン諸国を中心に工場移転が徐々に進行しているものと思われます。
さて、それでは「+ワン」の受け皿となっているのはどこの国でしょうか?前述の国際収支統計の内、対外直接投資のアジア主要国だけを抜き出したのが上の表になります。
この表の中国とアセアン6への投資金額を比較すると2012を除くと2010年以降アセアンへの投資額が中国への投資額を上回っていることがお分かり頂けると思います。この表には記載しておりませんが、同様の傾向は上述のように2006年から始まっております。ただし2008年は例外で中国向けが上回っていました。
この数字だけでチャイナ+ワンの恩恵を受けている国を特定するのは難しいと言わざるをえません。タイやインドネシアでは国内の中間層の拡大による個人消費の伸びに見合った追加投資が自動車産業を中心に行なわれていると推測されるからです。
いずれにしてもフィリピンへの投資は増加傾向にありますが、2009年の1244億円には届いていません。ただし本年上期の866億円を単純に2倍すると充分に超える可能性がありますので期待したいところです。
また、域内5位と相変わらず競合周辺国に遅れを取っていますので、アキノ大統領がつくり出した改革機運を継続し、着実に実績に結びつけて行きたいところです。更なる外国投資の誘致の為にも外資規制をはじめとする様々な規制改革・構造改革を積極的に推進して頂きたいと思います。
最後に全体的な傾向の中で特筆すべきは、一時マクロ経済運営に苦労し海外直接投資が減少していたベトナムが復活の兆しをみせ、マレーシア・インドが逆に減少に転じているのが気に掛かるところです。(続く)
(2013.9.2)