役に立つ経済学 大嶋正治BOIアドバイザー
第9回 ・ 雇用増なき経済成長
2012年のフィリピン経済は良いニュースと悪いニュースが交錯する中で幕を閉じました。11月末に発表された第3四半期の経済成長率が7・1%と絶好調のインドネシア(6・2%)を抑えてアセアン随一の成長を遂げ、下落傾向に必死の歯止めを掛けようと苦悩する中国の7・4%成長に迫る勢いを見せました。
ところが、12月18日に国家統計局が発表した10月の失業率は6・8%と、7月の7・0%からは改善したものの、前年10月の6・4%からは、逆に悪化する結果となりました。さらに、不完全就業率は19・0%と7月の22・7%よりは改善しましたが、前年10月の19・1%からはほぼ横ばいの結果となりました。
これは人数にすると失業者が280万人、不完全就労者が720万人となり、前年と比較すると、失業者数は10万人の増加、不完全就業者は逆に20万人の減少となりました。詳細は下記図表をご参照下さい。
この表から、次のような問題点を読み取ることができます。15歳以上の労働人口が100万人増加しているのに対し、働く意欲のある人達(求職者数)が80万人も減少しています。その結果、労働市場への参加率が66・3%から63・9%と2・4%も減少しているのです。国家統計局のリポートは、その原因には触れていません。
次に問題なのは、就業者数が90万人減少していることです。しかし、リポートは雇用が減少している事実にすら、言及していません。
政府が公共投資を増やし、民間企業が設備投資を行い、外資系企業が直接投資を実施し、個人が消費を増加させ、輸出も増加傾向にあるにもかかわらず、雇用が減少しているのは由々しい問題です。
次に、経済が成長していながら、なぜ雇用が増えないのかについて、考えてみたいと思います。11月末に統計調整委員会が発表した第3四半期の経済成長リポートによると、その成長を牽引したのは個人消費、輸出、建設投資、公共投資の各部門のようです。
これらの部門は第2四半期にも好調を伝えられていました。特に、建設部門の伸びが前年比で24%を超えて大きく貢献した模様です。まず第一に考えられるのが、消費や投資が国内産品の購入につながっていないのではないか、ということです。
自動車が売れても国内組立は台数ベースで約4割、金額ベースにすると、高級車は全て輸入ですから、国内生産に寄与する割合はもっと低くなります。さらに、その4割の国産車も部品の現地調達比率は30〜40%といわれていますので、国内総生産(GDP)への貢献度はより低くなります。マンションやオフィスが建設されても、セメントは国内調達が可能ですが、鋼材その他の主要資材は輸入に依存せざるを得ません。
公共投資にしても、例えば、高架鉄道の延伸工事では、電車・線路・信号システム・券売機・自動改札機等、建設労働者とセメント以外はほとんど、輸入に頼ることになります。ここでも、産業基盤の整備の遅れが雇用創出の障害になっているようです。
次に考えられるのが、雇用構造のサービス産業への偏重です。前出の労働実態調査リポートによると、サービス業53%、農業32%、製造業15%で圧倒的にサービス業に偏っています。
サービス業の中でも小売、運輸、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などは労働生産性が比較的低く、少々の売り上げ増では追加雇用につながりません。現状人員の生産性向上で対処できているのではないか、と推測されます。詳しい分析はフィリピンの経済学の先生方の研究を待ちたいと思います。
従って、今回も昨年来申し上げている「製造業への投資促進」が重要課題であるという説明で締めくくることとなりました。本年もよろしくお願い致します。
(2013.1.7)