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役に立つ経済学 大嶋正治BOIアドバイザー

第2回 ・ 国家予算の半分、OFW送金の功罪

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欧州の債務危機により、世界中の為替市場、債券市場、株式市場が大混乱の様相を呈しているにもかかわらず、フィリピンの金融市場は比較的平静を保っています。これがいわゆるフィリピン経済の持つ“粘り強さ”なのです。その根源は、昨年度ついに200億ドルを突破したOFW(フィリピン人海外就労者)による本国送金と言われています。今回はその歴史と現状、フィリピン経済に与えるプラスとマイナスの効果について、説明したいと思います。

 戦後、独立を果たしたフィリピンには、旧宗主国であった米国から消費財を製造するメーカーが次々と進出し、それまで米国からの輸入に依存していた消費財が、徐々に現地生産に切り替わりつつありました。1965年末に就任したマルコス大統領は当初、国内工業振興、貿易自由化の政策により経済を成長軌道に乗せ、失業率も7%から5%に改善しました。ところが、その強権的な政治スタイルに反発する学生運動や共産主義集団の爆弾テロを押さえ込むため、1972年9月に戒厳令を布告して急速に軍事政権化し、取り巻きを重用するクローニー資本主義に陥ってしまいました。

 その結果、経済成長は減速し、労働人口の増加に見合う就業機会を創出できないため、海外へ雇用機会を求めるOFWが出現し始めました。当初は、積極的な移民政策を進めていた米国行きから始まり、その後、家事労働者として香港やシンガポール、建設労働者として中近東、船員として日本や欧州で就労しました。そして、2005年までは、エンターテイナーとして毎年8万人のフィリピン女性が日本に送り込まれ、日本全国津々浦々でフィリピンパブが隆盛を極めました。

 このOFWの発展を支えたのが、1982年に設置されたPOEA(フィリピン海外就労監督局)で、OFWが海外で不当な扱いを受けないように、相手国政府の受入機関と交渉し、海外就労斡旋業者を厳しく管理して来ました。今回アラブ諸国で発生した“アラブの春”と呼ばれる民主化運動による政治的混乱では、POEAがチャーター機を手配し、外務長官がOFW救出のために、単身現地に乗り込む場面が新聞やテレビを通じて、数多く報道されました。皆様の記憶に新しいことでしょう。このように、フィリピン政府としても重要な産業の一つ、例えは悪いですが、貴重な「輸出産品」としてOFWを支援・育成していることが理解いただけたか、と思います。

 さて、それでは現在OFW達は世界中でどのようにして働き、貯金をし、それを母国で待つ家族に送金しているのでしょうか? 現状、約9百万人強のOFWが全世界で活躍しています。2009年度の上位7カ国を挙げると?米国(287万人)?サウジアラビア(110万人)?カナダ(64万人)?オーストラリア(34万人)?マレーシア(24万人)?日本(21万人)?英国(20万人)となります。

 ただし、これを2010年度の送金金額順に並べると?米国(85億ドル)?カナダ(21億ドル)?サウジアラビア(16億ドル)?英国(10億ドル)?日本(9・1億ドル)?アラブ首長国連邦(8・8億ドル)?シンガポール(7・9億ドル)となります。この2種類のランキングからは、オーストラリアとマレーシアは労賃の低い肉体労働系、逆にアラブ首長国連邦(UAE)とシンガポールは賃金の高い技能職系の就労が多い、と推測できます。

 また、海外就労者を多く輩出しているのはフィリピンだけではありません。2010年度の世銀統計による上位5カ国は次の通りです。?インド(540億ドル)?中国(530億ドル)?メキシコ(220億ドル)?フィリピン(214億ドル)?フランス(156億ドル)。1位、2位は印僑・華僑の国ですし、3位のメキシコは米国に隣接しており従来“ウエット・バック”と呼ばれる違法移民も含め大量に米国に移住し、黒人を抜いて第2位に躍り出たヒスパニック系の中心ですので、納得できます。5位のフランスは先進国でもあり、やや意外な感じがしますね。世界中にシェフやパティシエを送り出しているのか、あるいはカルロス・ゴーン氏のように、世界を股に掛ける国際派ビジネスマンが多いのか定かではありませんが・・・

 最後に、OFWがフィリピン経済に与える影響について説明します。まずは、受け取った送金の使途ですが、食費・住宅費・教育費に主に費やされるという調査データがあります。まさに、故郷に残した家族を支える大黒柱と言えます。また、昨年度の総額200億ドルは今年度のフィリピンの国家予算422億ドルの約半分に当たり、個人消費としてこの国の国内総生産(GDP)を支える主要収入源です。

 ただし、人口の約10%に相当する人達がOFWとして海外で就労しているため、通常の国に比べて国内消費性向が衣食住の基礎支出に偏り、生活水準向上のための耐久消費財購買意欲が抑えられる傾向にあり、この点が他のアセアン諸国と比較すると家電、二輪・四輪車の売上伸び悩みに顕著に表れていると思われます。また、送金以外に将来帰国した時のために積極的に1ベッドルームから2ベッドルームのマンションを購入しており、現在の不動産ブームの牽引車でもあります。ちなみに、私のマンションの大家さんも女性で、ドバイに出稼ぎ中の現役OFWです。

(2012.6.4)

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