役に立つ経済学 大嶋正治BOIアドバイザー
第12回 ・ 納税回避をたしなめた大統領
アキノ大統領は先月22日、中国系フィリピン人商工会議所の総会で行った基調演説で、参加した会員達に適正な納税をするよう呼びかけました。そんな記事が地元紙に掲載されましたので、当地の税金事情を詳しく調べてみましょう。まず、他のアセアン諸国と比較してみます。
GDP(国内総生産)に対する税収比率は12・3%と、インドネシアに次いで低く、マレーシア、タイとは3ポイント以上の差がついています。ちなみに、ベトナムは社会主義国であり比較が困難です。ただし、フィリピンも1990年代後半には、この指標が17%に達したこともあります。酒・たばこ増税の結果、今後、近隣諸国に追いつけるよう期待したいところです。税収のアップには、大統領が指摘したように所得税、法人税の徴税強化が何と言っても喫緊の課題、と言えそうです。
それでは、フィリピンの個人や法人はいかに、税金を払っていないか。アキノ大統領、プリシマ財務大臣、ヘナレス国税庁長官達の発言を引用しながら、概観します。
パンガシナン市のある医師は800ペソ、バコロド市の弁護士は200ペソ、ケソン市のテレビ放送関連技師は400ペソ、カガヤンデオロ市の実業家は千ペソしか、年間に納税していないそうです。国税庁の納税者記録によると、81・5%が源泉徴収対象の給与所得者(サラリーマン)、6・8%が確定申告を行なう自営業者、残りが不動産・証券の売却益や利子に対する課税だそうです。
さらに、納税した自営業者約40万人の中身を詳しく見ると、平均納税額が3万3千ペソで、これを元に月収を逆算すると、2万3千ペソになり大卒新入社員と大差ない水準となります。
本来の納税義務者のなかで、何人が払っているのでしょうか。国税庁の記録では、約180万人の自営業・専門職の人がいるそうです。PRC(専門職協会)に加盟する会員数は200万、貿易産業省に登録されている中小・零細企業数は80万社以上あるそうです。
これらの数字の合計と、実際に納税している自営業者40万人との間には、大きな開きがあり、納税額をあるべき水準に引き上げると同時に、課税対象者のすそ野も広げていくことが大きな課題と言えそうです。昔から税金は取りやすい所から取るのが鉄則と言われ、中世では農民が、近代になってからは我々、給与所得者がそのターゲットとなってきました。
日本でも、1960年代後半には「クロヨン」とか「トーゴーサンピン」という表現で、税負担の不公平に抗議したことがありました。いずれも、課税所得の捕捉率を示しており、「トーゴーサンピン」の方は、給与所得者が10割なのに対し、自営業は5割、農林水産業は3割、政治家はわずか1割を意味します。
フィリピンでも大金持ち、医師・弁護士・会計士等の専門職の人たちに、公正な納税義務の認識を持ってもらうことが重要になってきました。
従来は、納めた税金が公務員たちの汚職で無駄に使われるだけと非難して、納税回避の言い訳にしてきました。しかし、汚職撲滅を公約の第一に掲げるアキノ政権下では、このような言い訳はもはや通用しない、と思われます。冒頭のアキノ大統領の基調演説に戻りましょう。
「貴会議所加盟法人207社のうち、2011〜13年の間に納税者番号を取得された企業は約半分の105社、その内、納税申告をされたのが54社、内38社は課税所得ゼロで申告し、わずか16社だけが税金を納付されました。これは、全加盟法人の8%にすぎません」
フィリピンの全ての給与所得者、利益を計上する法人が、国家発展のために税金が有意義に使われると信じて納税すること、また国民の血税を無駄にすることなく、有効に活用する公務員が増えるよう、心から願っています。
——訂 正——
3月4日掲載の「役に立つ経済学」(11)で、官民合同プロジェクト(PPP)案件で当初リストアップされた案件のうち、落札された案件が1件で、かつ未着工と書きましたが、着工した直後に南ルソン高速道路側から設計不備による工事差し止め訴訟の提訴を受け係争中、と訂正します。
(2013.4.1)