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役に立つ経済学 大嶋正治BOIアドバイザー

第3回 ・ 比は次の成長期待国

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 最近フィリピンの経済成長への期待が高まり、さまざまなリポートで取り上げられるようになりました。主なものを列挙すると次の通りです。

 ?2011年11月 日経ビジネス「VIP経済圏(ベトナム、インドネシア、フィリピン」?2012年4月 著者 Ruchir Sharma 「Breakout Nations: In Pursuit of the Next Economic Miracles」(成長期待国:次なる経済発展の奇跡を求めて)?2012年6月 ニッセイ基礎研究所「アジア新興国、期待の星〜“本命”インドネシアと“ダークホース”フィリピン」

 かつて「アジアの病人」と呼ばれ近隣アセアン諸国の経済発展を羨望(せんぼう)のまなざしで眺めるしかなかったフィリピンに何が起こっているのか、その背景を考えてみたいと思います。

 まず、先進国を見ますと、リーマンショックからいまだに立ち直れない米国の景気低迷の長期化、ギリシャ、スペインに続きイタリアにまで拡大しつつある欧州の債務危機、電力供給不安や東日本大震災の復興対策が遅れ成長路線に戻れない日本があります。BRICSとしてもてはやされたブラジル、インド、中国の成長率は鈍化しています。さらに、アセアンでは洪水に見舞われたタイ、二桁インフレとドン安を克服できないベトナムなど、フィリピンを取り巻く外部経済環境は悪化の一途をたどっています。

 そのため、相対的な比較論として、今まで見過ごされてきたフィリピンに脚光が当たり始めたと言えます。例えば、日本、中国、タイの対極として、フィリピンの若い人口構成と、長期にわたる「人口ボーナス期」の持続が注目され、単なる輸出基地としてではなく、消費市場としても潜在的な成長性が期待されています。労働の中核を成す15歳から64歳までの生産年齢人口が増加する時期を人口ボーナス期と呼び、それが続けば、経済成長が加速しやすい、とされています。

 フィリピンは総人口の中位年齢が22・2歳と若く、かつ、今後30年以上、生産年齢人口の増加が期待できる有望な市場です。逆に中国やタイは、人口ボーナス期が既に終了し、今後は生産年齢人口が減少を始めるため、万一、経済政策の舵取りを誤ると、人口の減少、

老齢化と相まって、経済が豊かになる前に国が老い始めるという、危機的な局面を迎える恐れがあります。

 さらに、フィリピンの株式市況は世界の株式市場の低迷の影響を受けず、昨年来、史上最高値の更新を続けており、日本で一昨年設定されたフィリピン株式ファンドは、数少ないプラスの運用成績を上げている優良投信です。

 それと同時に、アキノ大統領が就任以来、粘り強く実行してきた数々の改革、改善が徐々に成果を見せ始めています。まず、投資家の信頼回復が第一番に挙げられます。汚職の撲滅や、ガバナンス(統治)の強化キャンペーンが効果を発揮し始め、公共事業などの入札プロセスが透明化され、費用の削減と工事の質向上が、同時に達成されつつあります。それに伴い、海外からの直接投資や証券投資が従来より増加し、雇用の創出や国際収支の改善となって表れています。

 徴税強化も前年比プラスの実績を上げています。しかし、予算対比ではやや未達成となっており、更なる努力が必要です。現在、国会で審議中の酒とたばこの増税法案が成立すれば、徴税が一段と強化されると思われます。

 次に、公共投資の不足をカバーするPPP(官民連携)インフラ整備案件の一段の加速が期待されます。道路や空港などのインフラ整備と、幼稚園1年と初等・中等教育12年制の完全実施、大学教育・専門教育の充実による有能な人材育成が、今後のフィリピン経済にとって、鍵になると思われます。

 増加する若い人口を教育してこそ、経済発展を支える人材を確保できます。教育できなければ単に失業者が増えるだけです。せっかくの人口ボーナス期の恩恵を受けることはできません。不足する教室を増設し、有能な教師を多く養成し、二部制、三部制の授業を1日も早く解消する必要があります。アキノ政権に残された任期はあと4年、もたもたしていては、だめです。「アランカダ・フィリピーナス!」(前進せよフィリピン!)

(2012.7.2)

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