誘拐、テロ活動を繰り返すイスラム過激派、アブサヤフのメンバーに読ませたい本がある。読書が彼らにどのような影響を与えるのか、私には分からない。しかし、この本に登場する主要人物は彼ら自身なのだ。
「アブサヤフに誘拐され山中へ」と題されたこの本の著者は、ジャーナリスト、ホセ・トーレス・ジュニア氏。昨年に起きたアブサヤフの人質誘拐事件について書いている。
しかし、より重要なことは、この本では被害者個人に焦点が当てられ、誘拐事件でだれが死に、だれが苦しんだ末に生き延びたのか、彼らが何者で、どのように行動したのかについて記録されているということだ。
この人質誘拐事件は昨年三月に発生、ミンダナオ地方西部バシラン州でカトリック系私立高校の教員や生徒、神父ら四十九人が二カ月以上にわたりアブサヤフにら致監禁された。
誘拐された四十九人とアブサヤフのゲリラ、それに救出作戦に当たった国軍兵士、人質の家族や友人などが登場する。フィクション小説のように受け取られそうだが、書かれていることはすべて事実。著者によると、「登場人物、場所、事件、引用文のすべてが事実に基づいている」
登場人物から聞き取った話が、優れた感受性と尊敬の念に基づいて書かれている。事実の記述にとどまらず、何が人間的であり、何が人間的でなかったかについての深い理解を与えてくれている。
また、この本は単に悲劇的な事件を伝えるだけの小説ではない。事件をめぐる様々な局面を記述するに際し、秀でた技巧が織り込まれている。最後に、アブサヤフとバシラン島の歴史的な背景が年代記とともに紹介されている。