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2月23日のまにら新聞から

「比を笑い者にする報道目立つ」 「危ない国」イメージの虚実

[ 2663字|2023.2.23|社会 (society) ]

過剰に比の負のイメージを強調した「ルフィ騒動」の報道のあり方を検証

 住友商事マニラ支店長射殺事件(71年)、三井物産マニラ支店長誘拐事件(86年)、日系建設会社社長の青木さん誘拐事件(93年)などをきっかけに、70~90年代に付いた「フィリピン=危ない国」というイメージがようやく過去のものとなり、今回の大統領訪日で比日経済交流に一段と弾みが付くことが期待されていたのに、また大きくイメージが悪化するのでは――。広域連続強盗への指示役としての関与が疑われる4容疑者の送還を巡る今度の「ルフィ騒動」で、在比邦人団体・経済団体関係者らからはこうしたため息が聞こえてくる。突然比に押し寄せてきた在京メディアを中心とする「集中豪雨型」の報道はどのようなものだったか検証した。

 Yahoo!ニュースの公式コメンテーターとして、各メディアの報じる比関連ニュースをチェックしている木場紗綾准教授=神戸市外語大=は「比を笑いものにしようとしている印象が大きかった」と振り返る。

 「報道全部ではないが、特に汚職がひどいことで知られるビクタン入管収容所が比の行政や司法システム全体を代表しているかのような印象を持たせるものが主流だった」と同准教授は指摘する。

 例えば、ある新聞記者からはビクタン収容所について「比の司法はそんなにひどいのか、法の支配はあるのか」と聞かれた。それに対し「入管は司法省傘下といっても行政機関であり、司法(地裁)は係争中の事件があることを理由に容疑者の送還を許可していなかったのだから、適切に機能しているのではないですかと説明した」。

 比でのルフィ騒動開始から約2週間が経ち、大統領訪日までに全員送還された段階になると、今度は「『政治が司法に圧力をかけ送還させた』といった報道が一部メディアでなされた」。

 送還されなければその遅れを批判し、送還されたら「司法をゆがめた」と非難する。「どっちに転んでも比の行政・司法を攻撃するロジック。また、『日本から開発援助を引き出すために容疑者を交渉材料にしている』といった憶測まで週刊誌は報じていた」(同准教授)

 ▽20対1

 通信社、大手紙、地方紙、テレビニュース電子版、週刊誌など多数のメディアをカバーするYahoo!ニュースの比関連ニュースをウォッチするなかで、今回ルフィ事件とマルコス大統領訪日に関する報道量の比率について、木場准教授は「20対1くらいの割合でルフィ報道が優勢だった」と振り返る。

 同准教授には「ルフィ」に関して連日取材や出演依頼の問い合わせが舞い込み、その数は全部で11件。「大学の広報部を通じた問い合わせも多く、広報部に『大統領訪日があるので引き続き取材が来るかもしれませんがよろしくお願いします』と伝えていたが、大統領来日に関しては、日本メディアからの取材依頼はゼロだった」。

 

 ▽改善していた汚職

 ルフィ騒動で報じられた比行政システムの汚職を強調する報道はどれほど適切だったのか。

 民間調査会社ソーシャルウエザーステーション(SWS)が、官庁との接点の多い企業経営幹部ら950人を対象に2016年に実施した汚職に関する調査によると、ビクタン収容所を所管する入管の「汚職撲滅の取り組みに対する純満足度」は、全35省庁・政府機関の中で最低のマイナス68だった。

 一方で、多くのビジネスに関係する証券取引委員会に対する純満足度は55(とても良い)で、35政府機関中最高。貿易産業省も43(良い)といった高スコアを取っている。汚職に関して最も評判が悪い政府機関である入管管轄のビクタン収容所を代表例に、比政府の汚職一般を論じようとするのは、著しく公平性を欠いた議論と言わざるをえない。

 国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」が世界180カ国で調査している、ビジネスパーソンと専門家がどれほど自国政府・政治家の汚職を認識しているかを指標化した汚職認識指数=CPI、100に近いほど腐敗が少ない=によると、2021年の比の指数は33で、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の中では6位。中央値であるタイ(35)とは2ポイント差であり、比は「ASEANで中の下」といったところが妥当な評価と考えられる。

 比の汚職問題はなお深刻であることには違いないが、それと同時に、長期的に見て汚職の改善が統計に反映されている点も見逃せない。

 比の汚職認識指数は、2006年は25だった。そこから21年までに9ポイント上昇している。

 さらに、企業幹部らを対象にしたSWS調査では「どれだけの同業者が政府関係者に賄賂を贈っているか」という質問に対し、「全くない~少し」と答えた割合が、2000年の43%から16年には58%に上昇しており、改善がみられる。

 ▽激減した犯罪

 一方、国家警察発表によると、2010年~15年の犯罪件数は267万件だったが、16年~22年9月までの犯罪件数は136万件。直近約5年間の犯罪件数は、その前の5年間の犯罪件数より約49・6%減少しているのだ。

 その中でも、殺人、性的暴行、車両盗難などの重大犯罪は2010~15年に115万件だったのが、16年~22年9月は37万3378件となり、67・7%減少している。

 SWSが89年から実施している犯罪被害に関する世論調査によると、89年に「過去半年間に家族が何らかの犯罪被害に遭ったことがある」と回答した世帯の割合は年平均で27・7%だった。それが、99年に14・5%、09年に10・5%、19年(第1~3四半期平均)には6・6%まで落ちている。 再生産される「比=危ない国」というイメージもまた再考される必要がありそうだ。

 22年の比経済成長率は政府目標超えの7・6%。21年に続いてASEAN2位となる見込みだ。所得の不平等を示すジニ係数は47・7だった2000年から、2018年には42・8に減少。貧困率は2000年は33・7%だったのが、2021年には18・1%に減少している。社会不安の原因であり、比経済の宿痾(しゅくあ)でもある経済格差も徐々に改善している。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ事務所の吉田暁彦調査ディレクターは「経済成長や政府の努力もあり、フィリピンの生活・ビジネス環境は徐々にではあるが改善している」と説明。「ジェトロでは、ルフィ事件以降も引き続きフィリピン進出に関する新規の問い合わせを受けている」とした。(竹下友章)

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