29日にフィリピンを訪問する石破茂首相との面会を翌日に控え、面会予定の残留日本人二世のうちの一人である松田サクエさんが28日、まにら新聞の取材に応じた。ダバオ地域から上京したサクエさんは、はつらつとした笑顔で「とてもうれしい。日本の親戚に会いたいと首相に伝えたい」と、首相との面会にかける期待を語った。
サクエさんは1930年代に生まれ、今年90歳を超える。戦前にフィリピンに移住し木材会社で働いていた日本人の父は物心付く前に事故で亡くなった。日本人狩りが横行する戦時中は、日本人であることを示す一切の書類を処分し生き延びた。しかしその日本人的な顔立ちから戦後は学校で「日本人だ、殺せ」と追い立てられるなど、苛烈ないじめや迫害を経験。小学校卒業後は対日感情がまだ厳しいなか、魚売りなどをして貧困を生き抜いた。日本人の血が流れていることで多くの差別や貧苦を経験しながら、それでも日本人の子であることを心の拠り所にして生きてきた一人だ。しかし書類の喪失により、戦後80年間、無国籍状態に置かれたままだ。
「石破首相と面会できると連絡があったとき、どう思ったか」との質問にサクエさんは、「とても幸せで光栄。日本で最も地位の高い人物だから。重要だと思われてると感じた」と喜びを言葉にした。「首相に何を伝えたいか」との質問には、「お会いできてうれしいということと、日本の親戚に会いたいと伝えたい」と語り、「父の故国である日本に行きたい。日本に行って、親族に会って、そして日本から日本人であると認めてもらいたい。これが私の子どもの頃からの夢だった」と続け、目尻を拭った。
「兄は戦時中に日本人迫害のため医者に行けず病死した」というサクエさん。日本人の血が流れているせいで過酷な迫害を受けたにもかかわらず、日本国籍を回復し、日本人として認めてほしいと強く願うのはなぜなのか。その質問にサクエさんは、「私の血、私の心、そして私の命は、日本に属している」と力強く回答。「私は父を愛している。だから、日本人も全員愛している」と語った。
石破首相が先月、参院予算委員会で立憲民主党の塩村あやか議員の質疑に対し、「公費で当事者の渡航や親族探しを支援することは、十分な理由のあることだと思う」と答弁したことについては、「知らなかった。それは非常にうれしいニュースだ」と声を弾ませた。
残留二世の国籍回復を支援する「フィリピン日系人リーガルサポートセンター」(PNLSC)によると、フィリピンに残留した日本人の総数は3815人。国籍の確認や回復ができた人は43%に当たる1649人いる一方で、47%に当たる1794人は国籍未回復のまま死亡した。現在、生存が確認でき、かつ国籍回復を希望する当事者は49人にまで減少。状況は時間との戦いになっており、当事者が寿命を迎える前に救済できるかどうかは、政府が今までより踏み込んだ支援を実行できるかにかかっている。 (竹下友章)