新聞論調
選管委員長の悪夢−統一選中止シナリオ
フィリピンの中央選管委員長は特異な職で、成熟した他の民主主義国家に同様の権能を有する公職は見当たらない。その特殊性は、委員長の資質や判断が選挙実施の成否を左右し、それ故に政治的に大きな存在となる点に集約される。
代表例はマルコス政権の選挙不正を支えたペレス氏。対照的な存在は一九九二年の大統領選を担当したモンソッド氏。大接戦になったにもかかわらず、アキノ政権からラモス政権への権力移譲が平穏に進んだ背景には、モンソッド氏の高い能力と高潔さがあった。現在のメロ委員長は元最高裁判事。史上最悪と評されたアバロス前委員長の後任となった彼は、一〇年五月、マルコス政権崩壊以来では最も注意を要する選挙を取り仕切ることとなる。
メロ委員長の課題は主に二つ。次期統一選の遅延または中止を狙う現政権の圧力をはねのけて公正な選挙を実施すること。そして、史上初となる全国規模の電子投票システム導入だ。
しかし、当の委員長は先日、同システム導入をめぐる入札不成立などへの懸念から「統一選中止シナリオ」に言及、「選挙中止の可能性を考えると夜も眠れない。まるで悪夢」と発言した。
悪夢は「入札不成立や裁判所の一時差し止め令が選挙直前に出た場合、手作業の集開票に戻す時間的余裕はなく、選挙中止に追い込まれる」という内容。だが、選挙中止となれば、国中が「マルコス政権の崩壊以来、まだ見たこともない悪夢」に見舞われることになる。
言うまでもなく選挙は民主主義の生命であり、同委員長にとっては選挙実施こそ最大の使命。「選挙中止」を口にする前に、手作業による集開票の準備を同時に進め、不測の事態に備えるべきだ。(18日・インクワイアラー)