ハロハロ
強制送還処分になった埼玉県蕨市在住の比人一家の取材では、仮放免期間が切れる度に早朝から東京入国管理局に通う羽目になった。地元弁護士会などが国連の「子どもの権利条約」の規定に抵触すると抗議声明を出したが、法務省の送還方針は変わらなかった。少女を日本に残し、後ろ髪を引かれる思いで離日した両親は、帰国後、マニラ市内で弊紙記者のインタービューに応じ、今後の不安な生活を吐露した。
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他人の旅券を偽造して不法入国した両親の行為は確かに悪質だ。しかし、十六年間も日本で平穏に生活してきたのだから……とつい同情したくもなる。しかし、こんな「かわいそう論」に激しく反対する書き込みがネット上にあふれた。自宅近くでは在留支持派と送還派が衝突する騒ぎも起きた。東京入管局には強制送還を叫ぶ団体が大挙駆けつけ、われわれ報道陣に向かって「同情するお前らも法を破る共犯者だ」と糾弾した。
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涙もろくなったせいか、この手の取材には気持ちが揺らぐ。「かわいそうではいけないか」と取材しながらこちらも頭を抱えた。当時の各紙の社説を見ると、特別在留許可を求める一家擁護論が大半を占めたが、反対に法務省の方針をやむを得ないとする論調も見受けられた。両親が帰国して一カ月。独り身になった少女が自分の孫と同じ年ごろだと思うと、ふびんな気持ちが募る。(富)