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9月11日のまにら新聞から

ハロハロ

[ 584字|2006.9.11|社会 (society)|ハロハロ ]

 映画には「幻の名作」がある。派手さがなかったり、前衛的だったりで集客力が足りず、早々と上映館がなくなる作品だ。最近の比映画「クブラドール」がそれだった。小津安二郎の影響が濃いようなマニラ市井物で、違法賭博フエテンの売人をする中年の主婦の三日間を描く。ベルリンやモスクワの映画祭で入賞したが、映画館内はがらがら。もう一度観ようと思ったが、消えていた。

 主役は中年女優のジーナ・パレナ。売人のおばさんはニコチン中毒で、のべつ咳(せき)をするが、この咳がまさに絶品だった。昔、杉村春子や木暮美千代というタバコの吸い方のうまい名女優がいたが、咳の演技ではパレナにはかなわない。売人をしょっぴいては私設宝くじのフエテンを買う警官、香港就労の娘からの送金を賭ける主婦。おばさんを見つけ、葬式の寄付金集めを依頼する神父さん。フエテンの胴元は大枚二千ペソをぽんと出す。

 まさにフィリピンの縮図がスラム街で展開する。おばさんは路地をうろついて一ペソ、二ペソの賭け金を集め、当たった人に賞金を届ける。聖母マリアやイエスの像を触りまくり、どんな物にもフエテンの当たり番号の啓示を発見する。ハリウッド映画のような計算された笑いではなく、貧しい人々の挙動すべてがおかしい。兵隊に行って死んだ息子の亡霊が母を心配して時々出現する。それが哀れで、この国は内戦中とあらためて想った(水)

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