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5月31日のまにら新聞から

ハロハロ

[ 486字|2004.5.31|社会 (society)|ハロハロ ]

 芦田伸介という渋い俳優がいた。事故で顔に深く無残な傷が残り、それが売りでもあった。その俳優とよく似た懐かしい名前が世界中の紙面に載った。映像ジャーナリスト・橋田信介。イラクで死んだ。二十年以上も前、バンコクで仕事仲間だった。「日本本電波ニュース」という共産党系テレビ通信社に働いていた。同社だけがベトナム戦争の北側を取材できた。

 危険な戦場を飛び歩いた橋田は腕も良かった。クーデターや大衆蜂起が続発した当時のタイでも活躍した。しかし民放の下請けだった。酔うと「月光仮面ノオジサンハ…」と歌い踊った。橋田はそのままバンコクに居ついた。東南アジア・フリークというより、日本に住み切れなかった。インドシナ、湾岸、アフガン、イラク。四半世紀もアジアの泥と砂の中で撮影し、書いた。そして全身蜂の巣にされて死んだ。

 生きざまは痛快だ。しかし彼の映像は所詮、日本向けでしかなかった。怒り、苦しむ現地の人々は被写体以上ではなかった。そこがマニラ新聞との違いだ。新聞はローカル性を武器に、その地の民とともにある。橋田の心は、あの俳優の顔のように傷だらけだったろう。合掌。(水)

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