「スールーを除外」 BARMMから、最高裁が判断
最高裁がスールー州をMARMMから除外する決定を下す。関係者からはバンサモロ分断の懸念も
最高裁は9日、2019年のバンサモロ基本法(BOL)承認の可否を問う住民投票を経て発足したバンサモロイスラム自治地域(BARMM)から、スールー州を除外する決定を下した。同決定は直ちに法的効力を持つ。スールー州は19年のBARMMへの参加に関する住民投票で反対票が上回っていたが、同州が属していた旧ムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)全体として賛成多数だったためBARMMの構成州に編入されていた。
判断文を書いたのは、2012年の政府・モロイスラム解放戦線(MILF)の枠組み合意で政府首席交渉官を務めたマービック・レオネン首席陪席裁判官。この判断には関係者からは当惑の声が上がるとともに、来年に自治政府発足に向けた選挙を控えるなかバンサモロの分断につながる懸念も表明されている。
最高裁は、スールー州をBARMMから除外する理由を、「ARMMの構成州・市を一つの地理的まとまりとして取り扱えるというBOLの解釈は、憲法10条18条の『住民投票に賛成した州、市、および地理区域のみが自治地域に含まれる』という条文に反する」と説明。
一方で、BOLとBARMMの設置自体については合憲と判断。「同地域をフィリピンから切り離すものではなく、外交権や主権を与えるものでもない」と指摘し、「より大きな自治権が与えられていることは、中央政府からの分離を意味しない」とした。
BOLに対する違憲審査請求は、スールー州のアブドゥサクル・タン知事が「ARMMを廃止するためには改憲が必要だ」などとして2018年に提出していた。
▽BARMM解体の懸念
BARMMのナギブ・シナリンボ前自治大臣は「この判断は、BOLに明示されていない脱退の選択肢を導入したのと同じ。他の州や市がスールー州に続く可能性もある」と懸念を表明。「あらゆる植民地主義に抵抗してきた13のイスラム教民族・言語グループの結束というバンサモロ概念の『死』につながる恐れもある」とした。
バシラン州選出のムジフ・ハタマン下院議員は、BOLの合憲判決については歓迎しながら、「バンサモロはスールー州なしでは完成しない。この地域の結束と包摂を促進するわれわれの努力に対する手痛い一撃だ」とした。
BARMM議会のライサ・アラミア議員は「全ての関係者が和平プロセスに引き続き尽力することが必要だ。真の成功の尺度は、司法上の勝利や政治力にあるのでなく、バンサモロの人々の永続的な平和、尊厳、繁栄にある」との声明を発表。今回の判断が「今後の複雑な問題に対処する上で戦略的思考の重要性を浮き彫りにした」と指摘した。
▽「予想だにしなかった」
中央選挙管理委員会のガルシア委員長は10日、最高裁の判断について「中央選管としては本当に驚いている。このような展開は予想だにしていなかった」と率直な驚きを表明。「われわれのシステムも、運営も、計画もスールー州をBARMMの一部として扱っている。これは大きな問題になる」とした。
その上で、来年のバンサモロ自治政府発足選挙を延期する可能性については「検討していない」と否定。「選管はバンサモロでの選挙に向かって全力を尽くす。スールーの候補者もバンサモロの選挙が実現しないなどとは考えず、今後の立候補証明(COC)提出に向け準備を進めてほしい」と呼びかけた。(竹下友章)