マラト・パブロフ駐フィリピンロシア大使は23日、記者団に対し、ロシアのウクライナ侵攻後に比政府が約19億ペソの前金を支払いながら契約を破棄した、軍用ヘリ16機の調達契約(約127億ペソ)の再開を含め、「フィリピンとのいかなる安全保障協力にもオープンだ」と表明した。また「平和的な原子力の利用も含めた経済協力にも前向き」との意向を示した。第二次トランプ政権の発足後、比の同盟国である米国がロシアへの距離を近づけている中での前向きな発言であり、マルコス政権発足以降に距離が空いた比ロ関係の再接近をこのタイミングで試みる意図もありそうだ。
同大使は安全保障の分野の他にも「貿易、投資、エネルギー、保健、海洋分野、農業、観光など多くの主要分野で多くの協力のポテンシャルがある」と指摘。その上で「タンゴは一人では踊れない。もしフィリピン政府が立場を変える用意があるなら、われわれの役割を果たす準備ができている」と強調し、軍用ヘリ調達問題について「契約を破棄したのはロシア側ではない」と釘をさした。
ドゥテルテ政権末期、比政府は中型多目的ヘリコプター「ミル17」16機をロシアから調達することで合意した。外交筋によると、その後ドゥテルテ氏が退任する4日前の22年6月26日、当時のロレンサナ国防相はドゥテルテ大統領=当時=に宛てた公式の書簡で、ヘリの調達合意を解除する意向を製造元ソブテクノエクスポート社に通知したと報告。その理由として「米国の『敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)』はわが国にも悪影響を与え得るため、契約解除は賢明な選択だ」と説明していた。
マルコス政権に代わった8月、比国防省は契約を正式に解除すると発表。それに対しカールソン駐比米国大使は当時、比政府に感謝を表明し、その上で、国軍近代化だけでなく同契約破棄で生じた損金にも使用できる1億ドルの資金供与を行う意向を示している。
ロシアは2021年に、中国、米国に次いで東南アジア諸国連合(ASEAN)間の合同海上演習を行うなど、東南アジア諸国との防衛協力に力を入れる。2000年代以降、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどの国の武器調達は大きくロシアに依存している。(竹下友章)