サンバレス州西沖にあるパナタグ礁(英名スカボロー礁)の近くで11日、比漁船支援活動をしていた比沿岸警備隊(PCG)の44メートル級巡視船「スルアン」=日本から調達=を妨害していた中国海警局船が、同海域で同様に比船への追尾を行っていた中国海軍のルーヤン3型ミサイル駆逐艦「桂林」に衝突した。海警船は船首楼が大きく損傷し、航行不能となった。PCGが発表した。
南シナ海の領有権・管轄権について中国に強い姿勢を取るマルコス政権下では、2023年から両国の主張が対立する海域で、海警局船と比海軍のチャーターボート、海警局船と比漁業水産資源局船、海警局船とPCG船などの間で衝突事故が起こってきた。その中でも、比船への妨害中に海警局と中国海軍艦との間で衝突事故が起こったのは初めて。落水を伴う事故も初となる。
PCGは同日早朝、5月から始まった漁民への現物支援事業「カディワ・ナン・バゴン・バヤン・マギギスダ(新英雄漁民の魂)」を実施していたところ、海警船が危険な操船や放水を開始。パタナグ礁から東約10・5カイリの海上で、PCG巡視船「スルアン」の右舷側から危険操船を仕掛けた海警局の89メートル級巡視船「海警3104」=中国海軍ジャンダオ型コルベット艦を転用=が、中国海軍艦「桂林」に衝突。海警船は損壊し、海警局職員が落水する海難事故となった。PCGは落水者の救助、負傷者への医療支援を提供した。
一方、同事業に投入されたPCGの97メートル巡視船「テレサマグバヌア」=日本から調達=が、比漁船を護送し、燃料などの支援品の供与を行った。
パナタグ礁は2016年の南シナ海仲裁裁判所で12カイリの領海を有する「岩」と認定されており、今回の事件は比中両国が領海と主張する海域で発生したことになる。
中国海警局は11日に声明を出し、「フィリピンは中国の度重なる制止と警告を無視して、黄岩島(パナタグ礁の中国名)近海への侵入を強行した」と発表。衝突事故については触れなかった。(竹下友章)