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11月6日のまにら新聞から

「準同盟」化に期待と警戒 締結の鍵握る上院 比日RAA

[ 1496字|2023.11.6|政治 (politics) ]

RAA正式交渉開始を受け、ズビリ上院議長、ホンティベロス議員らが積極的姿勢を表明。一方で野党院内総務は日本の再軍事化を懸念

 岸田首相が就任後初めてフィリピンを訪れマルコス大統領と会談を行った3日、昨年の比日外務・防衛閣僚会合(2プラス2)で検討が開始されていた円滑化協定(RAA)について、両国が正式な交渉を開始することが宣言された。訪問部隊が接受国側で犯罪を犯した場合の刑事裁判権の所在を明確化し、軍事基地など必要施設への相互アクセスや、隊員の公務中の負傷・死亡に対する請求権の放棄などを明記するRAAを締結すれば、両国は「準同盟」ともいえる関係となる。それ故、これまでに日豪・日英間で結ばれたRAAは、議会の承認が必要な「条約」として締結されてきた。そこで鍵となるのが比で条約の承認権を有する上院だ。衆院の過半数が賛同すれば承認される日本とは異なり、比での条約承認は上院の3分の2以上という髙いハードルがあるためだ。

 4日、岸田首相が日本の首相として初めて比議会で演説を行った後、上院のズビリ議長は記者団に対し「上院はRAAに取り組む準備ができている」と積極支持の姿勢を打ち出した。その上で、「RAA承認に必要な16票以上の賛成票を確保できると確信している」と楽観的な見通しを提示。同議長は以前から比日間での訪問軍地位協定(VFA)の締結を主張しており、4月には上院全24議員のうち11議員を引き連れ訪日。その際に防衛省の説明を受け、RAA締結に向けた協力を「緊急性をもって行う」と公に宣言している。

 RAAに期待する便益について同議長は、南シナ海で比中の緊張が激化する中で「海上安全保障に大きな助けとなる」と指摘。さらに、「比海軍と海上自衛隊、比沿岸警備隊と海上保安庁の間での訓練を通じ相互運用能力を高められる」と発言した。

 エストラダ元大統領の息子の1人であるジンゴイ・エストラダ上院議員は4日、RAA締結に賛同する声明を発表。同協定が「軍事協力、訓練、装備品・技術の移転、比政府が資金的に調達困難なその他の軍事アセットを通じ比の防衛力を高める」と期待を表明した。

 ただ、既存のRAAでは「部隊」の範囲は自衛隊と相手国軍に限られており、また、装備品の相手国への移転を促進する定めはみられない。RAA積極派には、理解不足に基づく過剰な期待もうかがえる。

 ▽再軍事大国化を警戒

 比における「リベラルの旗手」として知られる、上院で数少ない野党議員の1人リサ・ホンティベロス氏(自由党)も岸田首相の演説後、RAAに肯定的な立場を表明。「もしRAAが両国にとって良いことがはっきりすれば、比日の防衛協力を具体的に定める協定を追加することになる。南シナ海での航行の自由と仲裁裁判所判断を支持する同志国との協力は好ましい」と述べ、ズビリ議長と同様に、中国の海洋進出を念頭に海洋問題への対抗手段としての機能に期待を表明した。

 一方、ココ・ピメンテル上院野党院内総務は5日、ラジオ番組に出演し、「日本は第二次大戦の歴史という『重荷』を背負っており、軍事大国日本の記憶を想起させたくはない」と発言。「隊員間の交流を促進するだけなら問題ない」としつつ、「軍事協定」締結には反対するとの立場を表明した。南シナ海問題に関する日本への期待については「国際海洋法における関与は歓迎するが、日本の軍事拠点を比に設置する事態にならないでほしい」とした。

 岸田首相は4日の演説で、1977年の「福田ドクトリン」の継承を強く意識した東南アジア外交の新基本方針を表明したが、その福田ドクトリン3原則の第1に掲げられた「日本は軍事大国にならないことを決意する」という部分については直接言及がなかった。(竹下友章)

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