「戦後秩序揺らぐ岐路に」 比日防衛強化で越川大使 自衛隊創設69周年式典
日本大使公邸で7日に開かれた自衛隊創設69周年式典で、越川大使、比国防次官らが防衛協力強化への希望を表明
首都圏マカティ市の在比日本国大使公邸で7日、自衛隊創設69周年を祝う式典が開催された。比政府・国軍からは、大統領の代理としてベルサミン官房長官、テオドロ国防相の代理としてデレオン国防次官が出席したほか、ブラウナー陸軍参謀長、パレロ空軍参謀長、ロレンサナ元国防相(現基地転換公社総裁)らも姿を見せた。邦人団体代表者や各国の駐在武官や要人らも含め、約800組が招待されるという異例の大規模式典となった。
越川和彦駐比日本国大使はあいさつで「大戦の惨禍を知るわれわれの父祖が築いた戦後秩序がいま揺るがされており、われわれは重要な岐路に立っている」と強調。1年以上続くロシアのウクライナ軍事侵攻と台湾海峡を巡る緊張の高まりによって「安全保障上の問題にわれわれが緊急に対応することが求められている」とし、比日防衛協力の強化の緊要性を訴えた。
また6月に、比日米豪防衛相会談や海上保安庁・比米沿岸警備隊間の海上法執行演習がそれぞれ初めて実施されるなど多国間防衛協力が進んでいることに触れ、「『西フィリピン海』(南シナ海)の平和と安定の維持のためのこれらの展開を歓迎する」と述べた。
また昨年12月の戦後初となる日本戦闘機の来比、今年3月の護衛艦しまかぜ=全長150メートル、練習艦あさぎり=同137メートル=のダバオ市寄港に触れ、「こうした交流の拡大を考えるとき、人と人の交流の力を忘れてはいけない」と指摘し、82年ほど前に旧帝国海軍機が爆撃したクラーク基地への自衛隊戦闘機の来比が実現した背景には、比国軍から防衛大学への留学経験者の存在があったことを明らかにした。その上で、防衛大留学経験者で、留学中に知り合った自衛隊員との結婚を控える比国軍オレンセ中尉を壇上に招き祝福した。
▽兵站協力に期待
テオドロ国防相の代理として参加したデレオン国防次官は、2月のマルコス大統領訪日の成果として、比国防相・防衛省間の人道支援・災害救援活動などに関する交渉方式を定める文書(TOR)が締結されたことを挙げ、「自然災害および『人による災害』への対応力を高め、比日合同活動をする際の枠組みとなる」と強調した。
また、「日本は国軍近代化への一貫した協力者だ」と述べ、練習機TC―90、多用途ヘリUH―1H交換部品など自衛隊から国軍への装備品の供与を挙げ「これで比の海洋状況把握(MDA)能力が向上した」とし「比の兵站(へいたん)分野へのさらなる協力」に期待を表した。比日両政府は2016年に防衛装備品・技術移転協定を締結したほか、昨年は両国で輸送・燃料・弾薬などを相互に提供する物品役務相互提供協定に向けた協議を開始することで合意している。
昨年9月の比日米防衛実務者協議、先月の比日米豪防衛相会合など多国間協力が進んでいることについては、同次官は「日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心性と拡大ASEAN国防会議(ADMMプラス)の尊重を表明してくれた」ことを強調。比日防衛関係を地域の国々にも拡大したい意向を表明した。ADMMプラスは2010年に発足したASEAN10カ国と日、米、中、韓、豪州、ニュージーランド、インド、ロシアとの対話の枠組み。
さらに、日本が2016年の第2回日ASEAN防衛相会合で表明した、海洋・上空警戒監視能力向上や防衛装備・技術協力などの推進をうたう「ビエンチャン・ビジョン」を高く評価。日本を「地域で最も近しい防衛パートナー」とし、防衛関係の一層の強化への希望を表明した。(竹下友章)