南シナ海の防衛協力テーマに 比米相互防衛条約見直し
比米相互防衛条約の改定協議で、南シナ海での防衛協力が主要テーマに
フィリピンと米国が合意した比米相互防衛条約の改定協議で、南シナ海での防衛協力が主要テーマの一つになる見通しとなった。条約がもともと太平洋での有事を想定しているのに対し、中国と南シナ海の領有権問題を争う比は、同海域が防衛協力の対象に含まれていることを明確にしたい意向。ただ同海域で軍事的進出を図る中国と、「航行の自由作戦」を展開する米軍との偶発的な衝突に巻き込まれることを回避するため、領有権問題はあくまで外交的手段による解決を目指す方針だ。
外務省当局者によると、防衛条約の見直し内容については、実務者間で既に協議に入っているという。ルナ国防次官は7日、シンクタンクの会合で「南シナ海問題を含めた現在の地政学に相応した内容に見直すべきだ」と述べ、条約改定の必要性を訴えた。同席したキム駐比米大使も、現行の比米防衛協力強化協定などによる協力を推進する考えを強調、相互防衛条約の改定に同意した。
今後の実務者協議は、同盟関係維持の再確認を前提に(1)南シナ海問題など両国を取り巻く政治情勢の分析(2)条約が現在の状況に合致しているかどうかの検証(3)条約の適用範囲の明確化──などを軸に進められるという。
見直し論が浮上したのは、条約が冷戦時代の「遺物」になっているとの認識に基づくものだが、東南アジア諸国連合(ASEAN)の台頭や、南シナ海の領有権をめぐって、中国の主張を退けた仲裁裁判所の判断など情勢変化が背景にあるとみられる。
比は対テロ作戦や災害救助などで、ASEAN各国と防衛協力を維持する一方、昨年10月には中国とASEANによる初の合同軍事演習が行われた。比の防衛の基軸は米国との協力だが、外務省当局者は、東南アジアでの影響力を拡大している中国との協調も視野に入れた戦略を描いていくとしている。
比米条約は、外国からの侵略や攻撃に対処する相互防衛のための安全保障条約で、有効期間は無期限。1992年に駐留米軍が撤退した後も維持されている。米軍撤退後の両国の軍事協力は、98年の訪問部隊地位協定に加え、2014年には防衛協力強化協定を締結した。合同軍事演習のバリカタンを毎年、実施し、良好な関係を保っている。(横山立)