台風ヨランダ(30号)
被災地ルポ2 高級住宅地の豪邸や、比人海外就労者のマイホームも台風の高潮被害を受けた
台風ヨランダ(30号)襲来で壊滅的な被害を受けたビサヤ地方レイテ州タクロバン市。沿岸部には高さ約4〜5メートルの高潮が襲った。市内有数の豪邸やフィリピン人海外就労者(OFW)が貯蓄で建てたマイホームも被害に遭った。
「高級なシャンデリアも、ピアノも、ワインセラーも壊れた。貴金属も濁流に流されてしまった」。元タクロバン市長の義理の娘で医師のリリー・シンコさん(68)は、高さ約5メートルの天井を指さしながら、被害の大きさを強調した。
シンコさんの自宅は、タクロバン空港に近い高級住宅地「ベータ・ベイビュー・ホーム」にある豪邸。広い庭と私道を加えた敷地面積は約5ヘクタールにもなる。邸宅内には、幅約2メートルの木造らせん状の階段がある。11日午後、記者が訪れると、吹き抜けのリビングには汚れたままの高級洋酒や絵画が散乱していた。
シンコさんは、アンティークの椅子に座りながら「見てください、この無残な状況を。綺麗だった庭も壊されてしまった」と、やりきれない怒りをぶちまけた。
台風が襲来した8日朝、1階の寝室にいたが、徐々に風雨が強まり、2階に避難した。暴風が壁を打ち、ガチャーンという音とともに、庭に植えてあったパパイヤの大木が窓を壊して家の中にまで倒れてきた。すると数分のうちに水の高さは約4〜5メートルに達し、1階部分は全て水浸しになったという。
シンコさんは「暮らしを再建するには土地を売るしかない。どこか大手が買ってくれればいいんだけれど……」とため息を漏らした。
シンコさんと同じ住宅地に住む、レベッカ・エンデレスさん(38)は、高潮被害で、すっかり汚れてしまったマイホームを黙々と掃除していた。夫アンドリューさん(39)と、5年前に250万ペソで購入した。
アンドリューさんはアラブ首長国連邦の首都アブダビで働くOFWで、まだ連絡がとれていないという。レベッカさんは「心配していると思うが、夫に連絡する手段がない」と肩を落とした。
レベッカさんの家は1階建て。門扉もあり、シンコさんの豪邸に比べると小さいが庭もある。しかし、ベージュの壁はそのまま残っているものの、暴風雨で青色の屋根の半分が吹き飛ばされてしまった。家の中はテレビや冷蔵庫などが散乱していて、床は泥で汚れていた。
台風による濁流は、テレビや冷蔵庫など全ての家財道具のみ込んだ。庭には洋服、ギター、ベッドマット、靴、扇風機などが所狭しと並び、乾かされていた。レベッカさんは「マイホームに住むことが新婚当時からの夢だったのに」と、マイホームの無残な姿を前に表情を曇らせた。(鈴木貫太郎)