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9月20日のまにら新聞から

忘れ去られた遺産 スペイン語とアイデンティティー

[ 785字|2019.9.20|社会 (society)|新聞論調 ]

 ホセ・リサールは死刑の直前に書いた有名なスペイン語詩「最後の別れ」で祖国を「東洋の真珠」「失われた楽園」と記した。これは胸を締め付ける愛の手紙であり、物哀しくも甘い追憶に満たされた愛国詩だ。とくにスペイン語で読む時、一語一語、行間に刻みこまれた純粋な誠意を前にし、読者は深い悲しみを覚えるだろう。

 さらに悲劇的なのは我々がこの作品を読めないことだ。今日の比人のほとんどは革命の創始者達の言葉を話せない。我々が話しているのはスペインに立ち向かうふりをして我々の独立運動を裏切った、現地支配者層の共通語タガログ語である。

 我々は不幸にも、かつて自由で独立したフィリピンを夢想した最初の比人たちに命を吹き込んだ、豊かで勇敢な言葉を切り捨ててしまった。この言語的なギャップは、我々の共同体としての喪失感の核心にあるだろう。スペインは、我々のアイデンティティーと記憶の基礎に刻み込まれている。ラテンアメリカの「いとこ」達から離れて、比が間違った大陸に属していると皮肉に思いもする。

 もちろんスペイン時代は長きにわたる野蛮な抑圧と心ない偏見に満ちていた。しかし、アジア地域の近代化に先駆けた、豊かな教育機関の歴史を比にもたらしもした。小説家・ジャーナリストであったニック・ホアキンが述べたように「スペインの自由主義者やクレオール(比生まれのスペイン人)はフィリピン諸島に啓蒙主義とフランス革命の理想を輸入した」のだ。

 ガルシア・マルケスやマリオ・バルガス=リョサの小説を、我々が原語のスペイン語で読めたらと思わずにいられない。スペイン語を理解することは、失われた我々の一部を理解することだ。スペインに関連する比の遺産を正しく認識することは、共同体としてのルーツとアイデンティティーを再統合することになるだろう。(17日・インクワイアラー、リチャード・ヘイダリアン)

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