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4月25日のまにら新聞から

超法規殺害や赤タグ付け継続 24年度版「世界の人権状況報告書」

[ 1551字|2024.4.25|社会 (society) ]

アムネスティー・インターナショナルの年次報告書で、比について超法規的殺害や赤タグ付け、強制失踪などが継続されていると総括

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは24日、世界155カ国の人権状況をまとめた年次報告書を公表した。フィリピンの状況については、マルコス政権が2年目を迎えても超法規的殺害事件が続き、人権活動家らを共産主義者だと名指しして迫害する「赤タグ付け」が横行しているほか、環境活動家・先住民擁護活動家らの強制失踪も多数報告され、加害者である警官ら治安当局者の訴追なども進んでいないと総括した。

 同報告書では、ドゥテルテ前政権から始まった麻薬撲滅戦争に伴う超法規的殺害事件が、マルコス政権2年目に入ってもまだ続いているとし、23年度に329人が犠牲になったと大学の研究グループの調査結果を紹介した。この犠牲者の中には23年8月にリサール州と首都圏ナボタス市で別々の警官隊によって射殺された2人の10代の犠牲者も含まれているほか、同年9月にアブラ州バンゲッド町で貧困層向けに法律支援活動を行っていた弁護士の暗殺事件も含まれていると言及している。

 また、21年3月7日にルソン地方で活動家ら9人が各地での警察一斉捜査中に殺害された事件では17人の警官が告発されたものの司法省検察局が証拠不十分などで起訴を断念したことや、22年10月に殺害された著名ラジオコメンテーターのパーシバル・マバサさんの暗殺事件では3人の容疑者に最高8年の禁固刑など有罪判決が裁判所によって下されたものの、黒幕と言われる刑務局長らは行方をくらましたままで逮捕もされていないなど、フィリピンの刑事事件の容疑者の訴追がほとんど進まない問題についても言及された。

 国連人権委員会からも非難されている比政府機関による人権活動家らに対する「赤タグ付け」についても改善が見られないとしている。昨年3月13日には「共産主義勢力との武力紛争を終わらせる国家タスクフォース(NTF―ELCAC)」が人権擁護者保護法案に支持を表明していたカラパタンなど複数の人権擁護団体を「赤タグ付け」したほか、9月には教育省が首都圏内の公立学校16校を名指しして、比共産党やその軍事部門、新人民軍(NPA)の活動に参加させるべく生徒たちを勧誘していると公表したことも紹介している。

 さらに、2012年に発効したテロ資金供与防止法などに基づき昨年3月にカトリック系団体の財務担当者がテロ資金供与に関与したとして裁判所から有罪判決を受けたほか、5月にも人権擁護団体がテロ資金を供与しているとして国軍によって告発されるなど人権団体に対する政府機関による訴えも後を絶たないという。

 一方、昨年4月に「赤タグ付け」されていた先住民の権利擁護を訴える活動家のデクスター・カプヤンさんとジーン・デヘススさんがリサール州で強制失踪した事件では、9月に控訴裁判所が国家警察など政府機関に本人らの身柄を公開するよう求めた家族らの申立てを却下しており、被害者は不明のままとなっている。

 ▽新麻薬戦争の調査を 

 アムネスティ・インターナショナルのブッチ・オラノ比支部長は24日、今回の年次報告書の発表に伴い記者会見を行い、マルコス政権下で確認されている超法規的殺害の犠牲者数は600人を超えると明らかにした。また、22年6月から23年6月までに確認された犠牲者342人のうち、15%がダバオ市で発生していたとし、セバスチャン・ドゥテルテ・ダバオ市長が今年3月に「新麻薬戦争」を開始すると宣言したこととの関連性を示唆した。同支部長はマルコス政権に対し、「セバスチャン市長のように国内法を遵守せず、麻薬戦争を宣言して人権侵害が行われている自治体を調査すべきだ」と訴えたほか、フィリピンが国際刑事裁判所(ICC)へ復帰する手続きを始めるよう呼びかけた。(澤田公伸)

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