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5月7日のまにら新聞から

絵空事の自慢話

[ 718字|2012.5.7|社会 (society)|新聞論調 ]

報道の自由と暴力

 米国の民間団体による報道の自由度に関する調査で、フィリピンは昨年から4ランク上がり、42位に入った。大統領府は早速、我が国は「近隣諸国」の中で最高だ、とふれ回っている。そう吹聴すればするほど、うそは大きくなる。

 そもそも香港、台湾、韓国のみならず、インド、モンゴル、東ティモールも比より報道の自由度が高い。比の「報道の自由」は異常だ。記者が思い通り話し、書くことはできる。しかし、国家警察や国軍による暴力を覚悟したうえでの話だ。

 35人のジャーナリストが殺害されたマギンダナオ州大量虐殺事件から3年経った今でも「国境なき記者団」は、比をジャーナリストにとって、世界で最も危険な国の一つと名指ししている。記者を狙った襲撃や殺害事件は毎月のように起きており、すでに今年に入って2人が殺害された。本紙記者も命を狙われた。アキノ政権下では記者だけでなく、判事も、弁護士も、活動家も殺害される。それでも、大統領は人権を擁護し、報道の自由を推進していると言い張る。

 いまだに国会は、公文書を公開する情報公開法案を可決する気配がない。事実を報道することで威嚇や襲撃を受ける被害者がいる限り、大統領府の自慢話は絵空事でしかない。忠誠心を確保するため、軍と警察を擁護する現政権は、報道の自由確保には無力だ。比に報道の自由が存在すると主張すれば、全く実態を歪めることになる。それは、政治家の抵抗で、情報公開法が成立しない事実で明らかだ。

 報道の自由の確保に必要な政治的意思が現政権にはない。前政権と同様、政治的利益とご都合主義が大統領を動かしている。重い代償を払わなければならないとすれば、それは報道の自由ではない。(4日・トリビューン)

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