最高裁大法廷は25日、サラ大統領に対して提起された弾劾訴追の手続きについて、全会一致で違憲とする判断を下した。サラ氏への弾劾の申し立ては昨年3団体が別個に下院に提出し、下院議員がその内容を総合した訴状を今年2月に採択していた。そのことが、「同じ公職者に対して、1年に1回を超える弾劾手続きを開始してはならない」と規定する憲法11条3項の5に抵触したと判断した。最高裁のカミール・ティン報道官は、同日開いた会見で、最高裁判断の再検討を求める動議の提出は可能とした。 最高裁は今回の判断によって、サラ大統領にかけられた公金の不正使用などの「告発内容まで棄却されたわけではない」としながら、年1回ルールにより、「次の弾劾状の提出が有効となるのは来年2月6日から」とした。今年2月5日に下院は弾劾訴状を採択して上院に送達しており、その日を起点に1年過ぎた後となる。
▽下院の「オウンゴール」
今回の判断のポイントは、4件の弾劾訴状が提出されたことではなく、憲法の別々の条項を使った弾劾訴状の提出が1年以内に同時になされたことだ。
最高裁は、院議員または下院議員から承認を受けた市民が弾劾訴状を下院に提出できることを定める憲法11条3項の2によって提出された最初の3件の弾劾訴状と、下院議員の3分の1以上の承認を通じた弾劾訴状の提出および弾劾条項の即時認定を定めた11条3項の4に基づき提出された4件目の弾劾条とを区別。最高裁は最初の3件の弾劾状については、「2月5日にアーカイブ(記録)として保管されたため、却下または終結したとみなされる」とし、下院議員によって全3件の内容を総合した4件目の弾劾状を別と扱った。
判断文を書いたレオネン最高裁判事は「目的は手段を正当化しないという法の基本は明確。それはデュープロセス(適正手続)の原則が意味することであり、それを定めた権利章典(憲法第3条)は弾劾裁判にも当てはまる」との憲法解釈を提示。弾劾裁判の被告の罷免や資格剥奪については「最高裁は判断しない」ものの、弾劾手続きについては「最高裁は解釈をする義務を有する」とした。
最初の3件の弾劾状を憲法11条3項の2の定めに従って下院委員会で審議して一つに絞り、本会議で採択していれば、合憲となったことが含意される結果。サラ氏の「政敵」ロムアルデス議長が支配力を持つ下院が、性急な手段を取ったことで自ら招いた「オウンゴール」といえそうだ。
▽政府「判断を尊重」
自分の主張が通った格好のサラ氏陣営は同日声明を発表。「今回の全員一致の判断は、法の支配を改めて堅持し、弾劾手続きの乱用に対する憲法上の制限を強化した」として歓迎した。サラ氏陣営は2月に違憲審査を最高裁に申し立てていた。 大統領府は「まだ判断文を精査していない」としながら「弾劾手続きは立法府と司法の担当する事項だ」と述べ、最高裁判所の判断を尊重するよう呼びかけた。6月10日に上院に招集されている弾劾裁判所は「われわれには最高裁の判断を尊重する義務がある」とし「現在、判断文と、弾劾裁判所の管轄権に影響を与えうる関連指針の正式な送達を待っている」とした。 一方、下院報道官のアバンテ弁護士は「弾劾の開始は下院のみが有する憲法上の権限であり、今回の判断はチェック・アンド・バランス(抑制と均衡)を脅かす可能性がある」と懸念を表明。「下院の独立性を守るためにあらゆる手段を尽くす」とした。
最初の弾劾状を出した社会民主主義政党アクバヤン所属のペルシ・センダニャ下院議員は「最高裁は自身をサラ副大統領の甘やかし機関になり下がらせた」と非難。「多くの罪状が最高裁の影に隠れた。危険な前例となる」とした。二つ目の弾劾訴状を出した左派系市民団体バヤンは「腐敗した公職者への責任追及がまた頓挫したことに憤慨している」と不満を表明し、緊急抗議活動を呼びかけた。(竹下友章)