静岡県立大グローバル・スタディーズ研究センターは17日、在日フィリピン人のインターネット動画配信者「ユーチューバー」に焦点を当てた研究報告会をオンラインで開催した。登壇したのは、フィリピン大で修士号取得後、東京大学で博士号を取得し、静岡県立大訪問研究員を務めるアレソン・ビリョタ博士。同博士は海外比人就労者(OFW)の支配的な「表象」(イメージ)について、比では「現代のヒーロー/現代の奴隷」、「経済的救世主」といったものだったことを提示し、「インターネットが可能にしたユーザーがコンテンツの作り手となる活動の中で、比人の日本就労の経験や希望に関する可視性、表象、言説がどのように作り変えられたのか」という問いに迫った。
同博士は、100人を超える在日比人ユーチューバーの動画の分析のほか、本人に直接連絡を取って情報を収集。「日本での就労の情報を共有したい」「ホームシックや寂しさに対処したい」「親戚から勧められた」などの動機で配信活動を始めた日本在住の比人ユーチューバたちは、主に比人視聴者を対象とし、日本各地のリアルな状況や仕事の経験、食べ物などを紹介していることを明らかにし、その上で再生数、動画数、ジャンルなどの切り口から分析を提示。コメントへの「極性感情分析」では「日本語については『難しい』という意味で否定的な意見がやや多いものの、すべてのトピックで肯定的なコメントが大多数を占めている」と報告した。
また、上司に口頭で侮辱された経験をコミカルな寸劇にした動画を紹介し、「自身の経験や、場所を可視化する活動は、経験の主張であり、海外就労に関する支配的な表象への転覆行為となっている」と論じた。さらに、「これらのコンテンツにおける可視性という性質は、極めて親密にして、個人的でかつ公開されてもいる」と指摘。フランスの社会学者ダナ・ディミレスクが現代の移民を読み解く分析概念として提唱した、ICT技術でつながっている現代の移民を表す「コネクテッド・マイグラント」概念の限界を指摘し、「ネットワークト・マイグラント」概念を提唱した。(竹下友章)