オランダ・ハーグで14日、「麻薬戦争」に関連し人道に対する犯罪に抵触した容疑で逮捕され、国際刑事裁判所(ICC)の施設に収容されているドゥテルテ前大統領の公判前手続きが開かれた。その模様はICC公式ユーチューブチャンネルでライブ配信された。ドゥテルテ氏は健康状態を理由に拘置施設からオンラインで出廷した。
ICC職員によって読み上げられた起訴状では、①(ドゥテルテ氏がダバオ市の正副市長だった)2011年~16年の間、ダバオ市で麻薬密売や窃盗の容疑者を「ダバオ・デス・スクワッド(ダバオ処刑団)」を通じ少なくとも19人殺害したこと②(大統領を務めた)2016~19年の間に比全国で、法執行機関を通じて麻薬の密売・使用、窃盗の疑いのある人物を少なくとも24人殺害したこと――の二つの罪状が告知された。
青のスーツとネクタイ姿で出廷したドゥテルテ氏の発言は、冒頭の人定質問への回答のみ。モトック判事に名前を尋ねられた際は、「ロドリゴ・ロア・ドゥテルテ。これは私の名、ミドルネーム、姓だ」と回答。生年月日を尋ねられた際は、一度聞き返した上で、「3月28日、1945年に、レイテ州で生まれた」とゆっくり回答した。通信状況の悪さのためか、震えたような声が配信された。
罪状認否が行われる初公判は9月23日に予定されている。
▽「超法規的引き渡し」
ドゥテルテ氏の弁護人は、前政権で官房長官を務め、ドゥテルテ氏のハーグ移送に同行したメディアルデア弁護士。同弁護士は「主権国家の元元首が、民間飛行機に乗せられ、ハーグに直送されるという屈辱的な姿を全世界が目撃した。法律家にいわせれは『超法規的引き渡し』であり、法律家でない人にとっては誘拐だ」と主張。「私の依頼人(ドゥテルテ氏)の遺産とその娘を無力化しようとしてる現職大統領と、なりふりかまわず安売りと法律ショーをしようとする問題を抱えた機関が同盟を結んだ」と非難した。
その上で、①ドゥテルテ氏が健康に問題を抱えていること②1時間だけの面会が14日になって初めて許されたこと③印刷された逮捕状を受け取っておらず、検察側の主張を十分把握できていないこと――を挙げ、今回の審理の延期を改めて求めた。
それに対しモトック判事は①拘置施設でドゥテルテ氏は診察を受け、健康であることが確認されており、また高齢であることを考慮してオンライン参加を認めた②ローマ規程66条、同67条に基づく被告人の権利について、ドゥテルテ氏に通知されたという記録がある③本人が英語で書かれた逮捕状を認識しているという記録が残っている――と指摘。今回の審理延長申し立てが却下されたのは、公判前手続きには準備が必要ないためとした。
▽保釈にはリスク
超法規的殺害の被害者遺族らは同日、首都圏ケソン市のフィリピン全国教会協議会(NCCP)に殺された家族の遺影を持って集まった。遺族らは時折涙を拭いながら、公判前手続きの進展を見守った。
遺族らで作る団体「ライズアップ」は14日の声明で、メディアルデア弁護士が求めている保釈への反対を表明。「拘置施設は被告人を支援するための設備が整っており、裁判の手続きを妨害したり覆したりする潜在的なリスクが大きいことを考慮すると、被告人に特別扱いを受ける権利はない」とし「被害者は、被告人に逃亡の危険があり、証人や証拠の安全を脅かす存在だと考えている」と訴えた。
ドゥテルテ政権中、政府公式統計でも6000人を超える容疑者が麻薬捜査中に殺害されており、人権団体らはダバオ正副市長時代も含め2万~3万人規模の超法規的殺害があったと推計している。 (竹下友章)