石破茂首相は5日、参議院予算委員会で、戦後80年の区切りとなる今年に政府が無国籍状態に置かれている残留日本人2世(残留日系人)の一時帰国を支援することについて、「十分理由がある」と答弁した。また、公費による一時帰国が実現した場合に、当事者と首相の面会も「ぜひ実現したい」と明言した。残留日系人問題に取り組んでいる塩村あやか参議院議員(立憲民主党)の質問に対し回答した。
ほとんどが戦前に比に移住した日本人父と比人母との間に生まれた残留日本人2世を巡っては、これまで民間団体の支援で一時帰国事業が実施されたことはあるものの、公費による一時帰国が行われたことはなく、実現すれば戦後80年目で初の取り組みとなる。昨年12月には岩屋毅外相が、参院外交防衛委で塩村議員の質問に対し、「日系2世が高齢化する中、希望者の一日も早い国籍回復や一時帰国に向けた支援を進める必要がある」と答弁していたが、今回は、首相の国会答弁でより踏み込んだ意志が表明された。
塩村議員とNPO法人「フィリピン日系人リーガルサポートセンター」(PNLSC)は23年12月、クラウドファンディングを通じ、沖縄出身者の父を持つ残留2世2人の一時帰国を実現。帰国事業を通じ、2人の親族が名乗り出るとともに、父親の写真や位牌の系統図など各家に残された資料も新たに見つかった。一時帰国したうちの1人、サムエルさんには昨年、「香村サムエル」として家裁から就籍の許可が下りた。政府予算でより規模の大きい一時帰国事業を行えば、国籍回復加速の期待も高まる。
塩村議員の質疑に対する柏原裕外務省大臣官房参事官の答弁によると、1995年から外務省により実施されてきた実態調査で昨年までに3815人の残留2世が確認され、そのうち国籍の確認・回復ができたのは1615人。国籍未取得者2200人のうち、存命であることが確認されているのはわずか138人に減少した。そのうち日本国籍の回復を希望しているのは「50数人」という。
塩村議員は自身が発起人となった23年の一時帰国事業で、戦後78年経っているにもかかわらず親族との対面や就籍が進んだことを首相に報告し、「決して諦めてはいけないと感じた」と強調。「無国籍は人道上大きな問題。親族と会いたい、写真でもいいから父の顔を見たいと思うのは当然。2世の数は高齢のためどんどん減っており、父の顔も知らず、親族との再開も果たせず、無国籍のまま死去する2世の報告が続いている」と現状を訴えた。
その上で、「戦後80年、本当に最後のチャンスになっている。親族探しを望む2世の訪日を戦後80年の終戦の日までに実現するため、どのように取り組んでいくか」と石破首相の意気込みをたずねた。
それに対し、石破首相は、自身も残留日本人問題について最近テレビの特集を通じて理解を深めたことを明らかにした上で、「肉親に会いたいということで日本に渡航される。それだけでも相当のお金はかかる。そして親族探しにも相当なお金がかかる」とし、「戦後80年。一つ区切りだ。これを日本国民の負担において、渡航の費用あるいは親族探し、そういうことをすることは私は十分理由のあることだと思うし、国家としてそれは納税者の方にお願いする意味のあることだと思っている」と答弁。「8月15日に区切るということは技術的に可能かどうかは別として、このことについてはやはり日本として、そういう方々の思いに応えるということはしていかねばならない」と述べた。
「もし訪日が実現した場合、当事者に総理が面会し、戦後の暮らしにねぎらいの言葉をかけてほしい」との塩村議員の要望に首相は、これまで故・安倍晋三元首相、天皇・皇后両陛下(現上皇・上皇后両陛下)、柘植芳文外務副大臣が日系人に面会していることに触れた上で、「日にちの特定はできないが、総理大臣が会うということでそういう方々に日本の思いが伝わるのであれば、ぜひ実現したいと思っている」と明言した。(竹下友章)