首都圏サンフアン市で13日に開催された前大統領が名誉党首を務める野党ＰＤＰラバンの５月の次期上院選に向けた決起集会で、ドゥテルテ前大統領が参加者らを前に自党の公認候補９人を全員当選させるために「現職上院議員の15人を殺せばいい」と発言し、波紋を呼んでいる。15日付英字各紙が報じた。

　下院の動議で開廷が決まっているサラ・ドゥテルテ副大統領に対する弾劾裁判が設置される上院議会にどれだけドゥテルテ派を形成できるかが、サラ氏の政治生命を左右するため、ドゥテルテ派にとって命運を決める上院選となるとみられており、前大統領の過激発言については、各界から批判も出ている。

　前大統領は決起集会で、「今、彼ら（反ドゥテルテ派）はたくさんいる。ならば何をすべきか。現職の上院議員らを殺せばいい、そうすれば空席が生まれる。もし15人の上院議員を殺すことができれば、われわれ（の公認候補）は全員当選できる」とぶち上げたうえで、「それを実現できる唯一の方法は爆弾を使うことだ」と述べた。

　ＰＤＰラバンの決起集会には公認候補の９人が集まっていた。その９人は現職で再選を狙うデラロサ議員とボン・ゴー議員の他に、マルコレタ下院議員＝政党リスト制＝とジミー・ボンドック元娯楽ゲーム公社総裁、前大統領の盟友で新興宗教団体「イエスキリストの王国」の教祖であり現在人身売買容疑などで起訴・拘置中のアポロ・キボロイ師、ジェイビー・ヒンロ元内務自治次官、ラウル・ランビーノ元大統領顧問、ボンボン・マルコス政権で最初に官房長官を務めたビック・ロドリゲス氏、そして俳優のフィリップ・サルバドール氏。

　また、ドゥテルテ前大統領はこの集会で、「違法薬物を常習している大統領がいる。長期にわたる常習者だ」と述べるなど、マルコス大統領が違法薬物中毒者であると再び発言した。

　さらに、前大統領はマルコス政権がコメの価格を含む、食料価格の高騰を抑える対策に失敗していると強く批判した。

　▽名指しの上院議員ら訴追も可

　ドゥテルテ前大統領による殺害発言を受けて、有力弁護士団体の一つであるフィリピン統合弁護士協会（ＩＢＰ）のドミンゴ・カヨサ元会長は14日、テレビ番組でのインタビューで「前大統領の発言に恐怖を感じた上院議員らは、提訴することができる」との考えを示した。同会長は、サラ副大統領による大統領夫妻らへの暗殺計画発言について起訴相当との勧告を行なったばかりの国家捜査局が「前大統領の発言についても捜査を主導することが可能だ」とした上で、それでも名指しされた上院議員らが「自分は脅迫を受けた」と証言することが重要だと指摘した。

　一方、下院野党院内副総務を務めるフランス・カストロ下院議員も15日に声明を発表し、「これらの発言は冗談では済まされない。前大統領の発想は危険であり、政治的ライバルをどのようにみているのかその本性を示している。反対論者は抹殺すべきというような暴力的思想は民主的社会において居場所はない」と強く批判した。（澤田公伸）