タイ・サマック首相の表明した「コメ輸出国機構」創設は、フィリピンの盟友で東南アジア域内の地政学的穏健さを維持する力となってきたタイが強欲に屈したことを意味する。
首相の構想によると、同機構のモデルは石油輸出国機構(OPEC)。参加国は、世界最大のコメ輸出国であるタイと第二位のベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオスの五カ国になるという。
創設構想の裏側には、コメ国際取引の独占と価格統制を狙うタイ、ベトナムの思惑があり、ミャンマーなど残り三カ国の参加は「本当の狙い」を隠すためのカムフラージュにすぎない。 批判に対し、サマック首相は「世界市場でのコメ取引で、五カ国が助け合うよう望むだけ。(原油価格をコントロールする)OPECのようにはならない」と反論するが、「相互協力」は果たしてコメの国際価格を下げるためなのか。
実際、五カ国が協力すれば価格引き下げは可能だろう。ただ、それではサマック政権を支えるタイ農村部が打撃を受け、政権基盤そのものが危うくなってしまう。つまり、コメ輸出国機構創設構想は、タイの国益より政権安定を優先させる政治的欲望から生まれたのだ。
世界的なコメ危機にもかかわらず、機構創設を進めれば、「コメ価格をつり上げるという夢を実現しようとすれば、タイは飢えに苦しむ貧しい人々からの批判にさらされる」とバンコク地元紙が警告するように、タイの評価は大きなダメージを受けるだろう。比も、コメの安定供給だけを要請するのではなく、「機構創設は東南アジア諸国連合(ASEAN)結束の精神に反する」と異を唱えるべきだ。 (5日・インクワイアラー)