米国で第2次トランプ政権が発足したことを受け、ホセマヌエル・ロムアルデス駐米比国大使は22日(比時間)、就任前のトランプ氏を含めた有力者との懇談を重ねた感触として「米国は南シナ海の最前線に直面する比を必要としており、比米関係は危険にさらされることはなく、維持される」との見解を示した。
トランプ氏は、第1次政権期の2020年2月にドゥテルテ前大統領が比米訪問軍協定(VFA)の破棄を一方的に通告した際、「別に構わない。お金の節約になる」と発言。そのほか、南シナ海で航行の自由作戦を実施する米第7艦隊(母港・横須賀基地)を含む在日米軍の撤退をちらつかせるなどアジア地域への軍展開継続に消極姿勢を示しており、伝統的な「モンロー主義」(孤立主義)への回帰の傾向も指摘された。第2次政権の就任演説では「特に戦争に参加しないことで(政権の)成果が計られる」と述べており、バイデン政権で進んだ比米防衛協力路線が維持されるかどうかが大きな焦点として浮上している。
ロムアルデス大使は22日に複数の比メディアに出演。第1次政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたロバート・オブライエン氏らと直前に懇談したことに触れ、「フィリピンはアメリカにとって重要だと明確に伝えられた」と報告。また、第1次トランプ政権下の2017年から駐米大使をしている経験を踏まえ、「第1次政権ではポンペオ国務長官(当時)が『鉄壁の比米同盟』にコミットしたが、第2次政権の方針に変化の兆しは見られない」と説明した。ポンペオ氏は2020年に初めて政府公式見解として中国による南シナ海の領有権主張を「違法」と断定している。
さらに、「議会では共和党のハガティー上院議員らの発案で、比に対する5億ドル対外軍事融資(FMF)が(2024年に)決定しており、こうした路線は向こう4年間維持されるだろう」との見通しを示した。
▽「友好国」は優遇
トランプ氏の関税引き上げ政策が比に及ぼす影響については、第1次政権で商務長官を務めたウェルバー・ロス氏やオブライエン氏らとの意見交換を踏まえた見解として「新政権は米国と良好な関係にある国は経済であれ安全保障であれ好意的に扱う方針であり、比もそうした国に分類されている」とし「比への影響はないだろう」と述べた。また、「米国は比との経済協力を促進する必要性を認識している」とし「そうしなければ、『経済的威圧』に対しお互い脆弱(ぜいじゃく)になることが分かっているからだ」と指摘した。
「経済的威圧」は政治的動機に基づき輸出制限などを通じて圧力をかける行為で、近年は中国を念頭に対応が議論されている。先進7カ国(G7)ではサプライチェーン(供給網)の多様化を通じたデリスキング(リスク低減)を進めることで合意がなされているが、オブライエン氏は中国との経済関係のデカップリング(切り離し)に踏み切るべきと主張する論文を18日に発表している。
▽35万人の不法滞在比人
一方、ロムアルデス氏は「唯一最大の懸念」として、トランプ政権による強行な不法移民対応策の影響を指摘。「不法に滞在・就労する比人は米国に約35万人いると推定されている」とし「何年も米国で働き、家族も持っている当事者たちは一定の権利を持つ。当事者には比系米国人団体などを通じ、合法的に滞在するための手続きを進めるよう呼びかけている」と報告した。一方で、「もし合法的に滞在する道のない場合には、強制送還が実施される前に自発的に帰国することを推奨している」とした。
トランプ大統領は就任初日に南部国境の非常事態宣言を出し、軍隊を使った移民流入阻止に乗り出している。(竹下友章)