トランプ米大統領が先週発表した相互関税リストで、フィリピンへの関税は東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でシンガポールに次いで2番目に低い17%となった。大統領府のカストロ報道官は「この影響はごくわずか。他の国々がより高い関税を課されていることを考えると、朗報だ」と述べるなど、比政府関係者は前向きな見方を示している。
ロケ貿易産業相は「他国と比べ相対的に低いことは比にとって機会ともなる」と強調。レクト財務相は「内需にけん引されている比経済は、比較的(貿易戦争に対して)耐性がある」としながら、「予想される世界経済の減速の影響からは逃れられない」と警戒感も同時に示した。ラウレル農務相は「ココナツなどの特定の輸出品には(競争国である)タイよりも低くなるため、より輸出競争力が高くなる可能性がある」とした。
▽荒い計算がピッタリ
ASEAN諸国に課された関税はそれぞれ、カンボジア(49%)、ラオス(48%)、ベトナム(46%)、ミャンマー(44%)、タイ(36%)、インドネシア(32%)、マレーシア(24%)、ブルネイ(24%)、比(17%)、シンガポール(10%)の順。他のアジア主要国・地域を見ても、中国(34%)、台湾(32%)、インド(26%)、韓国(25%)、日本(24%)となっており、アジアでは10%だったシンガポールとトルコに次いで低い水準だ。
トランプ政権は相手国の非関税障壁も考慮に入れた米国への「関税」を出し、それに対する「相互関税」を課すという立場を取っているが、その算出根拠について世界中から批判が噴出する。この「関税率」を巡っては、対米黒字額を対米輸出額で割るというだけの「荒い」計算で行われているのではと指摘されている。トランプ大統領が公表した相互関税リストにある、比から米国への「関税率」は34%。2024年の米国通商代表部(USTR)データで、比の対米黒字額を対米輸出額で割ると、34%となり一致する。
また同リストにある他のASEAN諸国の対米「関税率」を見ると、カンボジアが97%、ラオスが95%、ベトナムが90%、ミャンマーが88%、タイが72%、インドネシアが64%、マレーシアおよびブルネイが47%、シンガポールが10%。同じ指標を計算すると、米国にとって貿易黒字国で基本関税率(10%)のみ課されたシンガポールを除く9カ国全てに同計算が当てはまった。米国からの関税率は9カ国ともその半分となっている。
比が地政学的重要性を持つため優遇されたとみるより、比のASEAN内での対米貿易黒字率が相対的に小さかった結果が、機械的に反映されたと考えるほうが妥当そうだ。
▽最大の輸出相手
比統計庁(PSA)の2024年貿易統計データによると、比の対米輸出は121億ドルで、103億ドルの日本(2位)、94億ドルの中国(3位)を上回り1位。全輸出の16・6%を占めている。一方で、米国からの輸入は5位の81億ドルにとどまり、約40億ドルの対米貿易黒字が発生している。
英字紙ビジネスワールドによると、昨年の対米121億ドルの輸出のうち、53%にあたる64億3000万ドルは電子製品。比開発研究所のリベラ上席研究員は「対米輸出の過半を占める電子製品・半導体はぜい弱になる。さらに、特恵関税の対象となってきた衣料品・繊維製品も問題に直面する可能性がある」と指摘している。(竹下友章)
ASEAN諸国に対する相互関税
国名 税率
カンボジア 49%
ラオス 48%
ベトナム 46%
ミャンマー 44%
タイ 36%
インドネシア 32%
マレーシア 24%
ブルネイ 24%
フィリピン 17%
シンガポール 10%
アジア太平洋・欧州地域に対する相互関税
国・地域名 税率
日本 24%
中国 34%
台湾 32%
韓国 25%
欧州連合 20%
英国 10%
インド 26%
バングラデシュ 37%
パキスタン 29%
トルコ 10%
スリランカ 44%
オーストラリア 10%
ニュージーランド 10%