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11月4日のまにら新聞から

心に残る無償の愛 フォックスさん出国

[ 640字|2018.11.4|社会 (society)|新聞論調 ]

 英国の有名バンド、ビートルズがフィリピンを去る時のことを覚えている人もいるだろう。彼らは当時のマルコス大統領夫妻から夕食の誘いを受けたが、すげなく断ったため、空港に押し寄せたマルコス支持者から暴言を吐かれるなど忘れられない見送りを受けたのだ。

 今回、オーストラリア人修道女のパトリシア・フォックスさん(71)との別れでは、そのようなことは起こらないだろう。しかし彼女は、ドゥテルテ大統領が入国管理局に捜査を命じた際、当局から圧力を受けた。見た目に傷はなくとも、彼女の心には深い傷が残っているだろう。

 フォックスさんは27年前、比で最も貧しく、地位が低く、弱い人々のために働くという理念を持って、比をすみかと決めた。彼女は貧しく辛い生活に身を置き、時に権力者との対立を強いられた。

 特に大統領は「くさい口で政府をののしり、比の独立性を脅かしている」と激しく批判し、「逮捕してやる」などと脅した。彼女がそこまで責められるのは、貧困層や先住民族に苦難を強いる強権的な政府に勇敢にも疑問を突きつけたからかもしれない。

 フォックスさんは「状況が変われば戻ってきたい」と話していたが、高齢のため難しいだろう。けれども政府によって虫のように追い払われる彼女に、ぜひ受け取ってほしいものがある。それは彼女の奉仕と無償の愛に感銘を受けた比人の心からの感謝だ。彼女の姿は、苦しむ隣人に助けの手を伸ばすときの手本となって、比人の良心と記憶に残り続けるだろう。(3日、インクワイアラー)

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