ハロハロ
[ 486字|2003.1.20|社会 (society)|ハロハロ ]
終電が走り去ったパサイ市の軽量高架鉄(LRT)・ブエンディア駅周辺。週に一度は、手押し車の「果物売り」が出没した。リンゴ、ナシ、ポンカン各二個、それにポメロ一つを加えて計六十ペソ。常連客が大ぶりの米国産ブドウ一房を五十ペソにまで値切ろうとする。ベンダーは二十歳代の青年。「負けました」とばかりに白い歯を見せた。
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「どうしてこんな安値で」「なぜ真夜中に」との疑問はすぐに解けた。仕入先はマニラ港。港湾局や関税局の職員が輸入業者からピンはねしたとされるものを密売するのだから「価格破壊」は限りなく可能となる。敵は車ごと没収しようとする警官だ。暗闇の中、小さな荷車で分散して売り歩く。追手を振り払おうと涙ぐましいまでの努力を重ねていた。
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彼らがここ数週間姿を見せない。「売上金の一部を気付かれないよう抜き続け、そこそこ貯まったので足を洗った」「汚職役人とつるんだシンジケートに『不正』がばれて監禁されているのでは…」等々。なじみ客らは気をもみ始めた。もちろん、あの破格値が未練なのである。この国の巨大な闇経済の一端をささやかに担った青年たち。無事を祈りたい。(康)