カトゥトゥボ・フィリピノ財団
民族文化の復活目指し
首都圏サンファン町の高級住宅街の一角、ウィルソン通り。通り沿いのブティック内に「カトゥトゥボ・フィリピノ財団」のオフィスを見つけた。「幻の繊維ピニャ」を復活させ、フィリピン独特の繊維や染色法などを調査・研究し、保存している非政府組織だ。ブティック「パティス」の主で、服飾デザイナーのパティス・テソロさんが、財団代表だった。
百五十平米ほどのブティック。玄関を開けると、所狭しと並べられたフィリピン各地の伝統織りや民芸品が眼前に広がった。奥の比較的広いスペースには、パイナップル繊維などで織られた女性用イブニングドレスや男性用の民族衣装「バロンタガログ」などが数十着ほど吊り下っていた。薄手で光沢がありながら独特の渋みを含んだ染色に目を奪われ、一瞬時間が止まったような気持ちになった。
テソロさんがパイナップル繊維「ピニャ」でウェディング・ドレスを作ることを思い立ったのは一九八六年。この伝統繊維は当時、パナイ島カリボ町の山村で細々と織られているに過ぎなかった。テソロさんは顧客や友人を説得し、「ピニャ」支援グループを結成。スパニッシュ・レッド・パイナップルと呼ばれる品種の苗木を育成、五年後に収穫にこぎ着けた。根気のいる複雑な手作業を経てようやく「ピニャ」の布が完成し、九一年には現地でこの布を使ったファッションショーを開いた。翌年に財団を旗揚げした。
同財団は現在、この「ピニャ」復活プロジェクトをパナイ島アンティケ州やネグロス島にも広げている。このほか、昨年からルソン島北部アブラ州で受け継がれていた、アチュエテや黄色ショウガなど野生植物を使って染色する方法に着目、土着染色法の研究プロジェクトを開始した。現地農家に対し、技術の保存と移転、市場の開拓と確保などの援助、さらに低利融資を実施している。また、ファッションショーや展示会を催したり、ブティックで製品を即売するなどして伝統文化の保存に取り組んでいる。
同財団のプロジェクト担当、ホセ・パミントゥアン(38)さんは、「九四年にフランス・パリの博物館で展示会を行った。好評で、半年の予定が一年間に延長された。将来、国内に常設の服飾文化博物館を設立したい」と話している。(澤田公伸)