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9月5日のまにら新聞から

サンアンドレス公営市場

[ 800字|1999.9.5|社会 (society)|名所探訪 ]

宗教超えた生活の場

 「商人も客もカトリック信者が大半だし、変に自分の宗教にこだわる必要もない。売り上げが落ちたら困るしね」。貴金属アクセサリーを販売するジェームス・イブラハムさん(49)は笑いながら話してくれた。ミンダナオ島マラウィ市出身のイスラム教徒だが、仕事中は宗教衣装を身にまとうことはしないという。

 マニラ市サンアンドレスのオニックス通りとダゴノイ通りの角にある公営市場。ここにはマニラ市キアポやタギッグ町ビクータンと並びイスラム居住区があることで知られ、出店の約三割はイスラム商人が営んでいる。

 裸電球に照らし出され光沢を放つ魚肉類や、陳列台の上に山積みになった野菜がなま物の独特の匂いを漂わせる。食料品のほか下着などの衣類、生活雑貨を扱うさまざまな商人の店が密集し、朝夕は買い物客でごった返す典型的な庶民の市場だ。

 焼き鳥をほおばっていた買い物客の一人、ブッチ・ボギオさん(40)も「イスラム教徒の店だっていい。問題は値段だよ」。

 市場の外にある一軒のサリサリ・ストア。九年前にミンダナオ島南西部、サンボアンガ市からこの土地に移り住んだリッジャ・アルント(40)さんの店。仕事を終えたイスラム商人たちの井戸端会議が始まった。

 きょうの売り上げや子供たちの学校の成績など話題は尽きない。「ここにはモスク(イスラム寺院)もあるし、家族みんなが平和に暮らせるだけで満足」と口々に言う。

 彼らが生まれ育ったミンダナオ島では「イスラム独立国家樹立」を大義名分とした反政府ゲリラ活動が依然活発だ。ミンダナオ島開発を重要視する政府はイスラム教徒とキリスト教徒の「融和」を目指し、ゲリラとの和平達成に向けた交渉を続けているが、その糸口はまだ見えない。

 だが、生活の場である市場やその周辺で、血で血を洗うフィリピン南部の宗教紛争の話は耳にしなかった。ここでは「生きること」により現実味があるようだ。(野口弘宜)

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