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3月28日のまにら新聞から

ベンゲット道路沿いの温泉

[ 913字|1999.3.28|社会 (society)|名所探訪 ]

日本人移民に思い寄せ

 ベンゲット州バギオ市からケノン道路(旧ベンゲット道路)を車で三十分ほど下ると、ボアック川にかかる全長三十メートルほどのつり橋が見えてくる。ワイヤーロープの錆びが目立つこの橋を渡るとクロンダイクス温泉がある。温泉といっても施設はひとつだけ。一九七〇年にバギオ出身のフィリピン人女性と結婚した米国人男性が出資し建てたものだという。入浴料は一人二十ペソ。

 「浴場」は水温の異なる四つの「スイミングプール」に分けられており、足をものの十秒も浸けておけないほどの熱湯プールもある。

 「ニホンジン、ハジメテヨ。ニホンノドコ。トシハ?」——管理人の一人、ジュン・ガルシアさん(27)が歓迎してくれた。通算三年間、日本のクラブで働いていた時、日本語を覚えたという。女性用のタンクトップを着ているが、声とニョッキと出た筋肉質の腕で「男」と分かる。

 ガルシアさんによると、週末にはバギオ市から平均四十人程度の家族連れやカップルでにぎわう。平日の昼間は閑散としているが、付近の道路工事や住宅建築の現場から仕事の疲れをいやすために十人程度のフィリピン人男性グループが毎夕、やってくるという。外国人客は韓国人が大半で、あとは西欧人が時折、訪れるだけ。

 プールサイドの雑貨店にはビールやジュース、おつまみの他に男性用のパンツも貸し出されていた。

 ぬるめの湯に浸かってみた。「首まで浸かり岩を背もたれにのんびりくつろぐ」。こういった日本の温泉の雰囲気は感じられないが、川沿いにあり緑に囲まれているため開放的な気分にさせてくれる。

 一九〇一年に米国が避暑地バギオとマニラを結ぶ目的で建設を始めたベンゲット道路工事には、フィリピン人や米国人らがかり出されたが、山間部の難工事に直面し「最後の切り札」として日本人労働者が募集された。工事には延べ約三千人の日本人移民が従事、事故や病気で数百人の犠牲者を出している。

 当時も川沿いには、温泉好きの日本人が設けた温泉があったという。バギオ市から下ってきた急勾配の道路の由来を思い出していると、仕事後にお湯で汗を流すフィリピン人グループの姿と道路工事に貢献した日本人移民の姿が一瞬、重なった。(上野洋光)

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