「ICCはすぐ捜査せよ」 下院でドゥテルテ氏が挑発
下院公聴会でドゥテルテ前大統領「明日にでもICCは捜査を始めよ。金をくれればこちらから出頭する」
ドゥテルテ前大統領は13日、前政権の麻薬撲滅政策(麻薬戦争)下で発生した超法規的殺害問題を調査する下院4委員会合同の公聴会に出席した。国際刑事裁判所(ICC)の捜査に協力する意思はあるかとの質問に、79歳の前大統領は「明日にもここに来て捜査を始めてほしい。あまりに時間がかかりすぎている。早くしないと私は死んでしまう」と積極的な姿勢を示した。さらに「有罪となったら、監獄へ行く。そこで朽ち果てよう」と述べた。
前大統領は「ICCは少しも怖くない。私は捜査を歓迎する」とした上で、「私は国家と麻薬に汚染された若者のために(麻薬戦争を)行った。言い訳も謝罪もしない」と断言。さらに「お金をくれたら自分からICCに行く」とも発言し、「ICCが来たら蹴りつけてやる。私の方から行くとしても連中を蹴ってやる」と挑発した。
一方で、自身が警察に麻薬取引容疑者の殺害を命じたかどうかについては、「容疑者が暴力的な抵抗をし、捜査員が命の危険にさらされた場合に殺せと命令した」と述べた。ただし、上院の公聴会でドゥテルテ氏は、容疑者に抵抗するように仕向け、「無力化」した形で殺害するよう指示を出したと発言している。
またドゥテルテ氏は、麻薬戦争に関連して訴追された警察官を支援する基金を設立し、自身も「100万(ペソ)拠出する」と宣言した。
元国家警察高官のロイナ・ガルマ氏が以前の下院公聴会で「ドゥテルテ氏時代にダバオ市では容疑者殺害への報奨制度があり、大統領になった後にそれを全国に拡大するよう指示を出した」と証言したことについては、ドゥテルテ氏はその内容を否定した。
▽出頭する自由ある
自らICCに赴くというドゥテルテ氏の発言を受け、ベルサミン官房長官は公聴会中に声明を発表。「もし前大統領が自らICCの司法管轄権下に服したいのなら、政府は反対も妨げもしない」と宣言した。
さらに、「もしICCが国際刑事警察機構(インターポール)に手続きを付託し、比政府に国際逮捕手配書が送達されたら、比当局は手配書の執行に協力する義務を負うだろう」と述べ、国内でのドゥテルテ氏逮捕の具体的な道筋にも言及。マルコス大統領が「ICCは比国内に司法管轄権を有しない」との認識を守るなか、大統領の基本的立場に反しない範囲で官房長官が「はしご外し」を行った格好だ。
フィリピンはドゥテルテ政権期の2019年にICCを正式に脱退。脱退後もICC検察は、ICC条約であるローマ規程に基づき脱退前に発生した犯罪への責任は脱退後も免責されることはないとの立場を取り、捜査を続ける。
そうしたなか今月に入り、麻薬戦争への捜査手続きを進めてきたICCカーン主任検事に「性的不正行為」問題が持ち上がった。ICCは11日に外部調査を実施すると発表。カーン氏は自身の問題への調査中も検察官としての職務を継続するとしているが、一時的解職が要求されているとも報じられる。
ロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニヤフ首相への逮捕状発付を実現させてきたカーン氏に不祥事が発覚したことが、ドゥテルテ氏を強気にさせた側面もありそうだ。(竹下友章)