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9月30日のまにら新聞から

日比「準同盟」に反対 東京でNGOが報告会

[ 2594字|2024.9.30|社会 (society) ]

日比「準同盟化」が進む現状に危機感を抱く市民やジャーナリストたちが報告会を開いた

院内報告会で発表する登壇者ら=9月18日に行われた報告会の録画ビデオからのスクリーンショット

 東京都千代田区の衆議院第一議員会館で18日、国際協力活動や交流活動を行う非政府組織(NGO)の有志によるネットワーク「NGO非戦ネットワーク」が、報告会「軍事化する国際協力にNO!戦争リスクを高めるフィリピンとの『準同盟』」を開催した。日本の海外開発援助(ODA)の枠組で支援した巡視船が南シナ海での中国との領有権争いの最前線に投入されたり、日比両国政府の間で「部隊間協力円滑化協定(RAA)」が7月に締結されるなど、両国間で「準同盟化」が進む状況について各NGO代表やジャーナリストらが報告し、参加した市民や国会議員らから「軍事的緊張が高まる」と懸念する声が上がった。

 報告会には市民34人に加え、国会議員2人が参加したほか、フィリピンの慰安婦支援団体リラ・ピリピナの代表がビデオメッセージを寄せ、比人海外就労者支援団体ミグランテ・インターナショナルの在日メンバーなども特別参加した。

 ▽非軍事原則がなし崩しに

 報告会ではまず、NGO非戦ネットワークの運営委員を務める今井高樹・日本国際ボランティアセンター代表理事が、日本政府の「非軍事原則」の下で進められてきたODAが軍事化支援へと徐々に変化している状況を総括的に報告した。

 今井理事によると、日本のODAの原則を定めたODA大綱が1992年に定められた際には環境と開発の両立や軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避などを盛り込んだODA四原則が確立され、非軍事的な協力に重点を置いた支援を続けてきた。

 しかし、2015年の改定で「非軍事原則」が緩和され、「防災・民生」目的であれば、相手国の軍・軍関係者への支援が解禁された。これを機会に日本政府は巡視船や沿岸警備システム、防災器材などを相手国軍に直接支援することが可能となった。さらに22年12月に岸田内閣で「安保三文書」が閣議決定され、ODAとは別に「同志国の安全保障上の能力・抑止力の向上を目的」として他国軍への装備品や物資の無償援助を行うことができる「政府安全保障能力強化支援」(OSA)の枠組が作られた。

 このOSAの初年度である2023年度(予算20億ペソ)の支援対象国としてフィリピン(沿岸監視レーダーシステム供与)、マレーシア(警戒監視用機材供与)、フィジー(警備艇供与)など4カ国が選ばれた。24年度(予算50億円)でも比が唯一2年連続で選ばれ、インドネシアやベトナム、モンゴルとともに支援対象国となっている。

 さらに、今井理事はODAで日本がフィリピンに供与した巡視船が今年4月に行われた比米合同軍事演習に参加したことを伝える報道を引用し、日本のODA支援が軍事演習にも投入されている現実を紹介した。

 同理事は最後にOSAに対してNGO非戦ネットが23年6月に発表した反対声明文を紹介。「平和国家としての信頼が失われ、国会論議もなく監視の目が届かない。覇権争いに加担し、国際的な緊張をエスカレートさせる」と改めて反対理由を強調した。

 報告会に参加していた紙智子参議院議員(日本共産党)は発言を求められ「ODAの非軍事原則がなし崩しになってきている。2023年の臨時国会の委員会審議でOSAの最初の案件となった沿岸監視レーダー供与の契約をフィリピンで署名したという岸田総理に供与品の能力や入札課程などの情報公開を求めたところ、テロ対策を目的とする受け入れ相手国の都合があるため情報公開できないと拒否された。国民の税金が使われており、情報を明らかにできない使い方は問題だと思う」とOSAの使途について疑義を呈すると同時に今後も監視する必要があるとの見方を示した。

 ▽封じ込めではなく包摂を

 一方、ジャーナリストの布施祐仁氏は日本とフィリピンの軍事協力強化の現実について講演。中国による南シナ海での実効支配地の拡大と威圧的行動が繰り返される中で、米比同盟の強化が近年進められ、今年4月には日米豪比の海軍による海上共同活動が実施されるなど同志国の間での軍事協力が強化されている現状を報告。事実上の訪問軍地位協定である部隊間協力円滑化協定(RAA)が7月に日比両国政府の間で締結された経緯などを紹介した。

 しかし、比を含む東南アジア諸国連合は設立当初から「東南アジア平和・自由・中立地帯」(ZOPFAN)を宣言するなど中立政策を取り続けてきており、2019年にはASEAN独自のインド大平洋構想(AOIP)を採択するなど、「対抗ではなく、対話と協力による包摂的な地域の発展」を目指してきたと説明。その上でインドネシアのルトノ外相が22年9月の国連総会で「このまま(第二次世界大戦に至るまでに経験したのと)同じ道をすすんでいくと、破壊へと向かってしまう」と懸念を示し、「競争ではなく協力、封じ込めではなく包摂のパラダイムを提案したい」と語りかけ「大国間の競争を克服する必要性」を訴えたことに注目した。そして現在、ASEANと中国が策定に向けて交渉を続けている「南シナ海に関する行動規範(COC)」が締結されるよう「日本があと押しするべきだろう」と訴えた。

 ▽強い反戦の声を上げる

 報告会では、フィリピン人元従軍慰安婦を支援するリラ・ピリピナのシャロン・カブサオ事務局長から送られたビデオメッセージも紹介された。カブサオ氏は「日本政府がいまだに従軍慰安婦など戦争被害者らに正式な謝罪や補償をしない中、日比が結んだRAAは日本の軍隊が再び比にやってくることを可能にする協定だ」とした上で、「米国の戦争計画に基づいて日本が製造・販売するミサイルや破壊兵器が持ち込まれるのではないかと我々は恐れている。戦争による占領は占領された人々にとっても支配する国の人々にとっても決して利益はもたらさない」と強い反戦の思いを伝えた。

 また、フィリピンで貧困削減事業を行っている「認定NPO法人アクセスー共生社会をめざす地球市民の会」の森脇祐一常務理事も「日本が戦後80年を経て、もう一度戦争の道を歩もうとしている」と懸念を示した上で、「まず他国の市民との交流を進め、友人になること。そして『自国第一主義』や民族排外主義と闘うことが重要」と語り、日本の市民が軍事化に反対する声を上げ続けることの重要性を訴えた。(澤田公伸)

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