ICC捜査「妨害しない」 デロラサ氏ら「容疑者指定」で
超法規的殺害で訟務長官「政府は協力はしないが、ICC検察官は自分で尋問することができる」と明言
ドゥテルテ政権期の超法規的殺害問題について、国際刑事裁判所(ICC)への提訴手続きを行ったアントニオ・トリリャネス元上院議員が7月25日、前政権期に国家警察長官を経験したロナルド・デラロサ現上院議員やオスカー・アルバヤルデ氏らを含む5人を容疑者とみなす旨記したICC名の文書をSNS上で公開した。これを受け、ゲバラ訟務長官はニュース番組のインタビューで、ICCから5人への捜査協力の依頼があった事実を確認し、「政府はICCの捜査を妨害しない」との立場を明らかにした。
同長官によると、ICCから要請があったのは7月はじめ。逮捕状を発付するには、告発者だけでなく、被告発者側からの情報も取りそろえてICC予審裁判部に申請する必要があるため、ICCは被告発者側の尋問への協力を比政府に求めてきたという。
要請に対し比政府はまだ正式に回答していないが、同長官は「マルコス大統領はICCに協力する法的義務はないと明言してきており、拒否する見込みが大きい」とした。一方で、「政府がICCに代わって5人に尋問することがないからといって、ICC検察官が直接尋問することを妨げない」と指摘。ICCが独自に聴取する際に政府は妨害しないことを明言した。
また、比がICCに復帰する可能性については「近い将来には実現しないだろう」と述べた。
ドゥテルテ政権期の麻薬撲滅政策(麻薬戦争)では、多数の麻薬捜査中の容疑者殺害が発生。公式統計でも6000人以上の死亡が記録された。人権団体らはドゥテルテ氏のダバオ市長時代を含め2万人以上が犠牲になったと推計。その中で警察が容疑者を超法規的に「処刑」しているとして、世界的に人権問題として取り上げられた。
前政権期に比はICCが麻薬戦争に関する予備的調査を始めたことに対抗し、2019年3月に正式脱退。しかしICC設置条約であるローマ規程は「脱退を理由に締約国だった時期の義務は免除されない」と定めており、ICC検察官は2019年3月までに比で発生した人道的犯罪などに管轄権があるとしている。
ICCのカーン主任検察官はロシアのプーチン大統領への逮捕状発付を実現した人物であり、ドゥテルテ氏への捜査も視野に入れる。一方、当選前はICC復帰を明確に否定していたマルコス大統領は、昨年11月にICCへの復帰検討に言及するなど、態度を少しずつ変化させていた。(竹下友章)