「子ども自身ではなく、路上の状況に問題」 ACC21の連続講座始まる
NPO法人ACC21が連続講座「フィリピンのストリートチルドレンのために私たちができること」の初回をオンライン開催
NPO法人アジア・コミュニティ・センター21(ACC21)は7日、フィリピンや国際協力などに興味を持つ若者から社会人向けの月に一度の連続講座「フィリピンのストリートチルドレンのために私たちができること」の初回をオンラインで開催した。高校生や大学生、大学院生、NGO関係者ら20人以上が参加した。
2005年設立のACC21は、これまで比を始め、アジア各地において現地パートナーとの連携の下、貧困や不公平の是正に取り組んできた。比では現在、「2030年までにストリートチルドレンをゼロにする」を目標に、若者の自立支援プロジェクトに力を注ぐ。
伊藤道雄代表理事は挨拶の中で、アジアを走り回った約40年前に夜間マニラ湾沿いで、路上の子どもたちに金銭を要求された経験を回想。「腕をつかむと折れそうに細く、目はにこりともしない」、その一方の「日本では子どもたちは親に夜食を作ってもらい、受験勉強に励んでいた」とのギャップを紹介。当時の体験が、現在でもACC21における伊藤氏の活動の原動力となっていることをうかがわせた。
▽格差社会のある国
初回で講師役を務めたのは「フィリピンと日本――戦争・ODA・政府・人々」(2023年、梨の木舎)などの著者で知られる、名古屋学院大国際文化学部の佐竹眞明教授だ。1980年の大学院時代から比に通い始め、マニラやネグロス島を中心に比との関わりを持ち続けてきたという。佐竹教授はスペイン統治、米国、日本の占領時代を中心に、比の歴史的な成り立ちを説明。マニラ市トンド地区での貧困層の暮らしぶりにも触れながら、参加者に向け、比の格差社会の現状も紹介した。
佐竹教授によると、比の面積は日本の約8割で、人口は1億1800万人おり、向こう4年で日本の人口を抜くと予想される。人口密度は1平方キロあたり397人で日本の326人(2023年)より高く、人口の3割以上がスラム地区に住み、「集合住宅には限られた人しか入れない」。また、平均寿命は男性が67.4歳で、女性が70.3歳、人口の中央値は25歳(日本49.1歳)だという。
佐竹教授は「日本は高齢化、比では若い世代が明日を作る」と強調した。さらに、政府による最貧困世帯向け条件付き現金給付事業(4Ps)はあるものの、実際には多くの家族が、NGO支援を必要としている状況を指摘し、「行政だけに任せられない」実態があることも伝えた。
参加者もグループに分かれての自己紹介や貧困についてのブレインストーミングといったアクティビティー活動を行った。各自関心を持つ点や、「貧困」と聞いて描くイメージを伝えるなどした。参加者には国際系の大学への進学を考える高校生や、自身が比人の親を持つ大学生、カトリック系の幼稚園を手伝うシスター、ミャンマーでの事業に携わるNGO職員も見られた。貧困に対するイメージとして、「生まれながらにして抱えてしまう問題」「衣食住すらが厳しい」「幸せの水準が低い」「大家族」「将来設計ができない」といった意見が挙げられた。
▽学生時代の体験が基
後半ではACC21に関わって15年、広報・比事業を担う辻本紀子氏が、「ストリートチルドレンの状況・課題」について説明した。辻本氏は学生時代に、日系NPO法人「アクション」のワークキャンプに参加。「オロンガポの漁村での3週間の活動が一つのきっかけとなって、国際協力に関わっている」と振り返った。
辻本氏によると、2015年時点で比全体に少なくとも36万9242人のストリートチルドレンがいる。その定義は①日中は路上で物乞いなどをし、夜はスラム地域の自宅に帰る子どもたち(70%)②路上で寝泊まりする子どもたち(25%)③家族関係が絶たれた子どもたち(5%)――。ACC21では、若者たちが路上を抜け出すための支援を通じて、これまで135人の若者の職業訓練を援助してきた。今後の事業継続と、比日の政府や市民社会をはじめ、社会全体への働きかけと協力を募っていくとしている。
また、「ストリートチルドレン」という言葉は転換時期が来ているとの意見もあることを紹介。「この言葉自体に差別や偏見があるのでは」とし「路上の状況にある子どもたち」(Children in Street Situations、CISS)という言葉が関係者間では使われている現状にも触れた。辻本氏は「子ども自身に問題があるのではなく、路上の状況に問題があるという考え方が発想の根底」と語った。(岡田薫)