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12月11日のまにら新聞から

放水で巡視船損傷 補給船はエンジン破損 アユギン礁

[ 1561字|2023.12.11|社会 (society) ]

中国海警局船が比EEZ内で比船に高圧放水砲を発射。比沿岸警備隊巡視船のマストは損傷し、比補給船のエンジンが破損した

中国海警局(右)から放水砲を発射される比船(中央)=10日朝、アユギン礁付近(PCGが公開)

 南シナ海南沙諸島で比が実効支配するアユギン礁(英名セカンドトーマス礁)で10日朝、同礁への補給任務に向かっていた比沿岸警備隊(PCG)巡視船と比海軍がチャーターした補給船に対し、中国海警局の大型巡視船が高圧放水砲を発射した。最大出力の放水砲発射により、PCGの44メートル級巡視船BRPカブラ=日本供与=は、無線機器などが搭載されるマストに損傷を受けた。また、2隻の補給船のうちの一つ「M/Lカラヤアン」は、海警局の102メートル級大型巡視船「海警5204」による放水砲発射でエンジンが大きく破損して自律航行困難となり、PCG44メートル級巡視船BRPシンダガン=日本供与=によってパラワン島までえい航された。

 比政府の西フィリピン海国家タスクフォースは「中国のいわれのない威圧と危険操船」に対し、非難声明を発表。「中国による組織的で一貫した不法で無責任な行動は、平和的な対話の呼び掛けに重大な疑問を生じさせる」とし、外交姿勢まで踏み込んで抗議した。また、上院のズビリ議長は同事件を「強く非難」するとともに、マルコス大統領に対し、黄渓連駐比中国大使を本国送還するよう求めた。

 9日にはサンバレス沖のパナタグ礁(英名スカボロー礁)で、比漁船への補給任務に当たっていた漁業水産資源局の漁業取締船に対し海警局船が放水砲を発射、取締船のレーダーを損壊させていた。明確な武力攻撃に当たらない範囲で力の行使を強める中国の「グレーゾーン戦略」が、比公船に対し物理的な損害を与える段階までエスカレートしている。

 ▽再度衝突、情報戦も

 海警局巡視船はまた、中国民兵船と共にアユギン礁に向かう比巡視船・補給船に対して急接近するなどの危険操船を実行。その中で比補給船「ウナイザメイ1」は、同礁で比海軍が詰め所とする座礁艦BRPシエラマドレに向かう途中、海警局の「海警21556」と衝突した。

 これを中国国営の中国国際放送は、「比補給船は中国の複数回にわたる厳正な警告を無視し、国際海上衝突予防規則に違反して、非専門的かつ危険な方法で急旋回し、法に基づいて正常に航行していた中国海警局21556に故意に衝突した」と報じた。

 これに対し、比政府の西フィリピン海国家タスクフォースは声明で、「海警局船が比補給船に衝突してきた」と主張。「中国政府が公共放送を通じて意図的に偽情報を流した」ことに対し、「重大な懸念」を表明した。

 事件後カールソン駐比米国大使はX(旧ツイッター)で、比への支持を表明。その上で「きょうの(座礁艦)シエラマドレへの補給任務を含め、不法で危険な行動を繰り返している」と述べ、中国を「激しく非難する」とした。さらに「中国の攻撃的行動は『自由で開かれたインド太平洋』を無視し、地域の平和と安定を損なっている」と批判した。

 10月22日のアユギン礁補給任務時に比巡視船と中国民兵船、比補給船と海警局船がそれぞれ衝突した際は、比日両国の安全保障担当官が比米相互防衛条約の発動についても協議していた。

 越川和彦駐比日本国大使はXで、「海警局船が比船に対し繰り返し行う危険行為」に対し、「重大な懸念」を表明した。フランスのフォンタネル大使は「比のEEZ内でBRPシエラマドレへの補給任務を妨害するために放水砲が使用されたこと」に対し「深刻な懸念」を表明。豪州のユー大使は「深い懸念」を表明した。

 2016年の南シナ海仲裁裁判でアユギン礁は、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき、比の排他的経済水域(EEZ)内にある低潮高地と判断されている。満潮時に海面に沈む低潮高地であるため、領海を持たず領有権主張の対象にはならないが、人工物の設置や環境保全などに関する管轄権は比に属する。(竹下友章)

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