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6月18日のまにら新聞から

子育てに追われ独学で アラビカ種栽培のコーヒー農家 ベンゲット州

[ 1575字|2023.6.18|社会 (society) ]

アラビカコーヒーの30%を栽培するベンゲット州のコーヒー農家で、子育てに追われながらコーヒー栽培を始めたシャーリー・イグナシオ・パラオさんに話を聞いた

ベンゲット州トゥバ町のコーヒー農家、シャーリー・イグナシオ・パラオさん=6月2日、首都圏パサイ市のワールドトレードセンターで深田莉映撮影

 首都圏パサイ市ワールドトレードセンターで今月2~4日に開催されたコーヒーエキスポ2023に出店していたコーヒー農家、シャーリー・イグナシオ・パラオさん(63)。フィリピン産のアラビカコーヒーの30%を生産しているコルディリエラ行政区ベンゲット州で、プレミアムアラビカコーヒー「シージョップ・カピ」を手掛ける。農家としては3代目だが、同州トゥバ町の自宅の裏にある畑の一画でコーヒー豆を独学で育て始めたのはパラオさんだという。

 2021年の比全国州・地域別コーヒー生産量1位で全体の35%を占めたスルタンクダラット州をはじめ、その他ミンダナオ地方では平地が多くロブスタコーヒーが主流。対してベンゲット州などルソン島北部ではアラビカコーヒーが多く栽培されている。パラオさんによると、標高が高く天候も比較的涼しいことや斜面での栽培法が影響し「ベンゲット産のコーヒーはフルーティーで、ナッツやカラメルの風味も混じり合う、よりリッチなフレーバーに仕上がる」という。

 野菜農家を始めた1代目の後、加えてパイナップル栽培を始めた2代目の畑を3代目として引き継いだパラオさん。高校生の頃には本格的に農業に従事していた。その後コルディリエラ行政区マウンテン州サガダでコーヒー農家をしていた男性と結婚し5人の息子を出産。彼女は「子育てに追われながら何種類もの野菜を面倒みきれないと疲弊し、裏庭の斜面の一画でより栽培しやすいコーヒーを2002年から独学で育て始めました」。

 09年には1年のコーヒーチェリー(熟した実の状態)の収穫量は300キロほどだったが、現在はコーヒーチェリー5トン、グリーンビーンズ(焙煎前の生豆)1トンを生産するまでになった。

 生産した様々な状態のコーヒーは、土産物屋や知り合いが運営するカフェ、コーヒープロダクトを扱うショップに卸したり、直接注文を受けている顧客に売ったりと、「そのほとんどを地元で消費していて、マニラや首都圏では余ったら運んで売る程度」という。

 コーヒー豆の主な収穫期は11~3月と長め。一番大変な工程は選別作業だと即答。パラオさんは「選別用の機械はあるが結局はひとの手と目で確認しなければいけない。アナログなマニュアルが一番」と話した。

▽激化する市場競争

 コーヒーの市場についてパラオさんは、ここ数十年でコーヒーの人気だけでなく、カフェという場所・空間そのものへの人気が高まり、生産者側の競合もかなり激しくなっていると懸念を挙げた。コーヒー農園の従事者もほかの農業と同じく高齢者が増え、「競争に負けてコーヒーの栽培自体を辞めてしまう人もたくさん見てきた」と少し悲しげな表情を見せた。

 コーヒー市場の人気も伴い、政府機関や民間企業がより効率的で質の高い栽培方法などを教えるセミナーも増え、独学時代に比べ学ぶことも増えたという。コロナ禍では移動制限が厳しく、直接の注文以外はストックが難しく在庫管理に苦労したが、政府運営の産地直売店舗「カディワ」が積極的に買い取るなどのサポートもあり、「特に大きな問題もなく乗り越えられた」という。そのほか、台風や災害による損害を被った場合は自発的に報告することで給付金などの手当や野菜の種を受け取るなど、政府からの支援には概ね満足している様子だった。

 パラオさんは「コーヒー農家を始めてから、研究や農家同士の交流でフィリピン各地を巡るようになったのが良かったことのひとつ」と笑顔で話した。5人の子どもたちは「1人はマーケティングを学んでいて、農家4代目として5人とも地元で後を継いでくれる予定」と誇らしげに言葉を紡いだ。「激しい市場競争は続くと思うが、生産量をもっと効率的に増やし、値段も20~30%程度上げていけたら」と今後の展望を語った。(深田莉映)

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