「いつかここを離れたい」 路上から日本へライブ配信
路上で暮らす若者の声を聴く「フィリピンの路上とオンラインでつながるライブ配信」を実施
日本のアジアコミュニティーセンター21(ACC21)とアジア宗教者平和会議東京(ACRP東京)は27日、路上で暮らす若者の生の声を聴く機会として「フィリピンの路上とオンラインでつながるライブ配信」を行い、日本から約40人が参加した。また同配信に際して、「子どもの家」を運営するなどしている日系NPO法人ICAN(アイキャン)の職員らの協力を得た。
ライブ配信では、首都圏の交通事情や店で売られるレチョンマノック(鳥の照り焼き)、市場の様子も映され、日本ではあまり目にしない肉の塊やアディダス(鶏の足)など、庶民の台所に直結した食料事情が紹介された。今年1月には1キロ当たり700ペソに値上がりしていたタマネギが、現在120ペソまで落ち着いていた。
配信の中で「5、10、15ペソでパンは買える」や、比人は「鳥肉が好きで、よく揚げ物にして食べている」「豚耳や豚足は煮込み料理に」。また、バグース(ミルクフィッシュ)を使ったシニガンスープなど、生活スタイルや料理にも言及した。
市場を出てからストリートチルドレンのグループに接触し、ケイトちゃん(9)とフリオくん(11)、レンジーくん(16)の3人(いずれも仮名)へのフィリピン語でのインタビューが行われた。
墓地内で生活しているという3人きょうだいのレンジーくんは、母の死で働き手が必要となり、小学校5年で中退。路上では物乞いや車の窓拭きで、1日約250ペソ、時に300ペソを稼ぐという。収入は食事代と1ペソ5分のインターネットカフェでのオンラインゲーム代に。1日3食というレンジーくんの食事については「ライスを買ってスープはただでもらう」そうで、余分なお金があれば「将来の貯金に」と希望を口にした。
路上生活の中で嬉しいことは「他の人から食事や水を分けてもらったり、お金をもらった時」で、難しいことは「毎回人に声をかけること」と明かした。就きたい職種は「最も身近な仕事」の建設労働者だという。路上には誘惑も多く、レンジーくんはラグビー(シンナー)や大麻、覚せい剤など一通り経験済み。ただ「自分自身それが悪いことと気づいて」すでに止めた。路上で生き抜くための仕事は「誰からも教わったことはない。自分で考えてしている」と語った。
▽危険と隣り合わせ
父親が刑務所に入ったことで稼ぎ手がいなくなり、小学3年で学校を辞めたケイトちゃんは、物乞いで多い時は200ペソを稼ぐ。使い道は1日3回の「家族の食事代」で、「余分なお金があれば食べものを買う」と強調した。ケイトちゃんにとって楽しい時間は「友達と一緒にゲームしたりおしゃべりしたりする時間」。路上生活での困難については「速度を上げて通り過ぎる車やバイク」を挙げた。その間で物乞いをして歩くのは、命の危険と常に隣り合わせだ。ケイトちゃんは「いつかここを離れて新しい生活を送りたい。仕事に就いて家族を助けたい」と話す。これまで「少しだけ興味があった」ベイプ(電子たばこ)以外に手を伸ばしたことはない。
父親が交通整理の仕事をしており「地区の借家に住む」フリオくん。それでも4人きょうだいの家計を助けるため、小学6年時に登校を断念した。車の窓ふきの仕事で日々約300ペソを稼ぐ。稼いだお金は1日2回の食事代のほか、家族や自分の将来のためにも貯める。「警察官になって悪い人を取り締まりたい」と夢を口にするフリオくんが幸せを感じる時は「自分だけじゃなく家族と一緒に食事ができる時」だそうだ。タバコを吸っていた時期もあったが、今は止めているという。フリオくんとレンジーくんは、仕事中、交通事故に遭った経験を持つ。
▽差別や偏見も
路上の若者支援に携わって10年になるアイキャンの福田浩之事務局長は、路上ではシンナーが20ペソで買えることや、空腹感をまぎらわす作用があることなどを説明。路上の若者が地域の大人や政府機関から差別的扱いを受けてきており、「犯罪予備軍として見られる」実態を伝えた。「自分に対して自信が持てず、夢を諦めてしまっている」傾向が見られることも明らかにした。改めて路上の3人に今必要なものを尋ねると「安心して眠れる家や日用品」「学校に復帰するための手助け」と返ってきた。
ACC21とACRP東京は「路上で暮らす子どもがいない未来へ」を目標に、クラウドファンディングで「2030年までにフィリピンのストリートチルドレン37万人をZEROにしよう」と呼び掛けてきた。期間は4月12~5月31日で目標金額は200万円。29日時点で84人から140万9000円の支援金が集まっている。(岡田薫)