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3月28日のまにら新聞から

「世界規模の熱狂を作る」 DAOや暗号通貨による運営導入

[ 3169字|2023.3.28|社会 (society) ]

比コスプレ業界に着目したオタキュートの大原雄代表に経緯や将来像を聞いた

オタキュートの大原雄代表=3日、首都圏マニラ市で沼田康平撮影

 海外における日本アニメ、ゲームの人気は年々熱を帯びており、新型コロナ規制の緩和とともにコスプレイベントも息を吹き返してきた。コスプレへの関心が高まりつつあるここフィリピンでも、コスプレイベントを軸にビジネスをはじめた若き企業がある。成長途上のフィリピンに目を付けたオタキュートの大原雄代表(33)に起業までの経緯や展望を聞いた。(聞き手は沼田康平)

 ―主な事業内容は。

 共同創立者の小林健三郎氏と立ち上げたオタキュートはアニメやゲームのキャラクターなどのコスプレイベントの主催がメインで、自社のイベントスペースの貸し出しも行っている。加えて、コロナ禍でコスプレを辞めていく人がいるなか、少しでもコスプレイヤー(レイヤー)を支援できればとオンライン投げ銭アプリ「OTASUKE」を開発し、運営している。アプリには現時点で約2万6000人が登録している。

 ―起業のきっかけは。

 日本で電気部品を製造する企業に務めていたとき、現状に満足できない思いがあり、それまでの逆を目指そうと思い立った。サラリーマンの逆で、起業。日本の逆で、海外。海外を目指そうとしたときに英語の必要性を感じ、来比し当時最も安価で厳しい語学学校があったバギオで英語を勉強。その後、ビジネスの中心地であるマニラにやってきた。起業前にはまにら新聞で営業として勤務したこともある。

 起業した当初は、流行に乗ってVR(仮想現実)やゲームを楽しめるカフェを始めたが1年で廃業。小林氏らとの出会いもあり、現在の事務所があるラペラルモール(マニラ市)に拠点を移し再挑戦を考えた。そのゲームカフェを宣伝する目的で150人規模のコスプレイベントを開催し、そこで、来場者に感想を聞いたところ、「こんなクレイジーで楽しいイベントは初めて」と、心に電気が走るような反響があった。この熱量のまま規模を大きくすれば、もっとすごい景色が見られると考え、イベント会社への道を選んだ。

 ―まにら新聞入社の理由は。

 歴史ある会社で経験を積み、さまざまな場所や人に出会いたいと考えた。ジプニーや電車の乗り方、土地勘など同社勤務時代に得た知識や経験はフィリピンで過ごす下地になっている。

 ―比市場をどうみるか。

 伸びるのは間違いない。人口1億人以上で平均年齢も若く、今後もコスプレ好きな若い層が増えていく。また日本のポップカルチャーが好きな人が多くいる。

 コスプレを楽しむ人は増えている一方、彼らに還元する仕組みがない。ほとんどのコスプレイベントも参加してくれるレイヤーに大きく頼っているにもかかわらず彼らには報酬がない。レイヤーのモチベーションにつながるように、そしてコスプレを続けられる収入が得られる仕組みを作りたい。

 将来性もあって規模も問題はないが、ビジネス化、構造化ができていないので、そのモデルケースを作りたいと考えている。

 

 ―韓国勢の脅威について。

 棲み分けができていると感じている。Kポップや韓流好きな層とJポップやアニメが好きな層ははっきり分かれているようで、脅威とは思っていない。

 ―コロナ禍をどう過ごしたか。

 アプリ「OTASUKE」の開発が決まっていたので、日本でベンチャーキャピタルや投資会社などにオンライン含め百件ほどプレゼンを行い、資金調達に奔走した。資金が集まらなければ全てが止まってしまうという状況で大変だった。

 ―組織構造は。

 オタキュートという会社組織は存在するが、今後の事業は暗号資産(仮想通貨)を活用しDAO(自律分散型組織)として運営していきたい。DAOとはブロックチェーンに基づき一定のルールに従って運営される組織形態の一つ。中央集権型の組織でなく、メンバー全員が平等な立場で運営される透明性の高い組織を目指したい。

 オタキュートとしてのDAO参加者全員が事業の提案から運営、実行を行う「文化祭実行委員会」のような形で運営していく。

 ―収益構造について。

 イベント主催やレンタルによる収益とアプリ内での投げ銭から発生する手数料が主な収入源。イベント主催は労力の割に利益は出ていないが、リアルイベントにのみ存在する熱量は何ものにも変えがたく、なんとか続けていきたい。またDAOの運営やアプリ内での投げ銭は暗号通貨(COT、コスプレトークン)でやり取りしており、その価値が上がることも収益のひとつ。

 ―組織の目標は。

 世界規模の「熱狂」を作ること。まだ手探りな部分が多いが、イベントの数が増えるほど争いの数が減ると信じており、どうすればそんな場所や機会を世界に増やしていけるか模索を続ける。

 ―拠点の拡大は。

 まずは東南アジアで、特にインドネシアとベトナム。すでにアプリ「OTASUKE」の登録者数の半分はインドネシア。インドネシアは親日国で人口が多く、日本アニメの人気も高い。またベトナムもアニメ好きが多く、暗号通貨に対するリテラシーが高い。アプリ普及の大きな可能性を秘めている。

 ―尊敬する経営者は。

 起業の際に出資してくれたRISKTAKERの冨山智広代表取締役社長。会社名にもあるように「何かを得るにはリスクを取らなければならない」という考え方に共感する。

 ―どんな社長でありたいか。

 私の幸せの定義は好きなことができること。社員や支えてくれる人には何事も嫌々やってほしくない。そんな環境を整えたい。

 ―経営上の信条は。

 好きなことをやろう。

 ―今まで一番ピンチだったのは。

 アプリ「OTASUKE」開発を外注に丸投げにしていた時期。予定通り進まず、予算交渉もしていなかったため、資金と時間だけを浪費した。結局アプリは全くの未完成だったが、下請との契約を終了した。その結果、全て自社開発することになったが、今となってはそれが良かったと思っている。

 おおはら・ゆう 19

89年生まれ。山梨県韮崎市出身。日本大学生産工学卒。双葉電子工業、まにら新聞などを経て2019年にオタキュート設立。

もっと聞きたい!

 ―比日の違いは。

 日本に戻ると、とても静かで閉そく感を感じる。生存本能が働かず、比の雑多な感じが好き。

 ―好きな言葉は。

 相田みつをさんの「ともかく具体的に動いてごらん 具体的に動けば具体的な答が出るから」。動けば、何らかの答えが出るという行動力の重要性を認識できる。

 ―比で住みたい場所は。

 マニラが好き。ほかならバギオ。涼しくて、人も良かった。飲み屋やレストランがセッション・ロードにまとまっている所も好き。

 ―他人に負けないところは。

 知識やスキルが無い分、人よりも足を動かすことを意識している。初めて会う人とはできる限り対面を心がけている。

 ―子供の頃の夢は。

 兄が目指していた影響もあり、医者を志していた。

 ―学生時代に熱中していたことは。

 あまり熱中することがなかった。だからこそ、熱中しているオタクやコスプレヤーが羨ましい。

 ―人生の分岐点は。

 日本の会社を辞めたとき。会える人も(環境や生活の)濃度も変わって比に来て正解だった。

 ―影響を受けた本は。

 こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)。主人公である両津勘吉のぶっ飛んでいる具合が好きで、元祖師匠。

 ―10年後の展望は。

 これまでいろんな人に支えられてきた。今度は次のチャレンジャーを支える存在になれたら。

 ―挑戦したいことは。

 色んな世界、知らない場所を見たい。

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