「相手傷つけぬ技術の活用を」 指導員向け逮捕術訓練開始
マニラ市PCG基地で海保の派遣専門家によるPCG指導員対象の制圧術訓練が開始
首都圏マニラ市比沿岸警備隊(PCG)ファローラ基地の体育館で13日、日本から派遣された海上保安専門家2人による比沿岸警備隊(PCG)指導員向けの制圧術訓練が始まった。今回派遣されたのは、海上保安学校門司分校=福岡県=の飯干智文教官、海保モバイルコーポレーションチーム篠原宗一朗派遣協力官。海保から国際協力機構(JICA)に長期専門家として出向し比に駐在する小野寺寛晃3等海上保安監も参加した。PCGからは門司分校での制圧術研修を終了した指導員8人含む13人が参加。13~15日で制圧術の復習を行い、16~17日に派遣専門家の監督の下、研修修了生がPCG隊員への制圧術指導を行う。
海保は20年以上JICA事業としてPCGの能力構築支援を行っており、逮捕術を含む制圧術については、2010年から門司分校にPCG指導者候補生を例年2人ずつ受け入れ約1カ月の訓練を行ってきた。訓練を受けた後長い年月が経った修了生も増え再訓練の必要性が高まったことから、今回初めて門司分校研修修了生を対象とした専門家派遣を行った。
初日は逮捕術の基本である受け身、構え、体さばき、間合いなどを復習。まずは参加者が比で指導している動きを示し、派遣専門家2人がチェック。それに基づき、両専門家は「横受け身時に膝を傷めないための体重の乗せ方」「移動時に肩が上下しないためのすり足の使い方」など手本を示しながら教えた。
昨年門司分校で研修を受けた女性隊員レイチェル・ピオロ少尉は制圧術の使用対象について「法違反者は麻薬密輸業者だったり、最近ではタマネギの密輸業者だったり。武器を持たない相手に火器を使うことは出来ないから、制圧術はとても重要だ」と語った。
参加者の練度について飯干教官と篠原派遣協力官は「まだ形を真似ている段階で、50~70%といったところ。制圧術は、一つ一つの動作に目的があるので、それを言葉で説明できるようになってほしい」とし、その上で「参加者はみな真剣で、かつ楽しい雰囲気もある。これは辛い訓練を修了するためにとても大事な要素。将来性はとても大きい」と手応えを語った。
また両氏は日本式の制圧術について「制圧術の中には口頭制圧、逮捕術を使った制圧、武器を使った制圧など段階があるが、相手の抵抗・脅威に比例した方法しか海保は取らない」と紹介。「極力相手を傷つけない制圧」において、合気道をベースとする日本式制圧術は「世界でもレベルが非常に高いと思う」と説明した。
小野寺氏は「武器不使用の制圧術が未熟だと早い段階で武器を使用に踏み切ってしまう。世界の沿岸警備隊の使命は海上の容疑者を刑法の手続きにかけること。その意味で逮捕術はどの国にも必要な基本スキルだ」と語った。
また篠原派遣協力官は「海上犯罪は複数の国籍にまたがる問題。容疑者を極力殺傷しない制圧術は外交的観点からみても重要性が高い」とした。
▽通訳師範代
今回の訓練で目を引いたのは、派遣専門家2人の説明を英語に訳しながら、自身でも技の手本を示して見せる通訳のレジー・オフリンさんの存在だ。飯干教官の説明を通訳しながら、華麗に受身を取り構えの体制に入る動作の手本を示したときは、喝采を浴びた。
オフリンさんは96年に日本の語学学校に留学。その際に合気道の創始者植芝盛平が設立した合気会に入門し合気道を習得。制圧術訓練を含む海保派遣協力事業の通訳を2012年から務めている。
飯干教官は「オフリンさんのお陰ですごく教えやすかった。練度は参加者より上。まさに師範代兼務という感じだった」とたたえた。(竹下友章)