「世界の教育現場を見たい」 大学を休学して比の学校へ
国際交流基金の日本語パートナーズの大谷海さんがいる高校を専門家らが視察
新型コロナ禍で3年間の中断を経て、首都圏やセブ地域への派遣が再開されていた国際交流基金の日本語パートナーズ(NP)第9期の14人が、それぞれの任地で6カ月間の日本語普及活動に従事している。同基金マニラ日本文化センター(JFM)日本語専門家の大日方春菜さんと西村尚さん、そして調整員の阿部紋子さんが17日、NPの派遣校である首都圏ケソン市の公立校セルジオ・オスメーニャ・サー高校を訪れ、授業を視察した。
同校で週2日、フィリピン人教師と協働で4コマの日本語教育や文化交流のクラスを受け持つ大谷海さん(22)は、東京学芸大の教育学部4年生で、小学校教員を目指している。ただ「フィリピンに来るために休学中で、帰国後に4年生をやり直す」予定だ。
大谷さんは2年前に日本のNPO法人のボランティアに参加し、首都圏やパンガシナン州などで約2週間、貧困地区を見学したり、富裕層の家庭でホームステイも経験した。その際に比の子どもたちと触れ合ったことで、小学校教師への思いが強まった。大学卒業前に「世界の教育現場を見ておきたい」気持ちから、NP赴任地に比を希望した。
▽好きな言葉はチキン
日本の中学1年~高校1年に相当する同校の全校生徒数は1500人。そのうち、日本語選択の生徒は約120人おり、大谷さんは週2日で全学年を担当している。この日38人が出席した中学1年のクラスでは、ジェサ・アルカイデ先生を補助する形で「好きな言葉は○○です」という構文を中心に練習。「チキンです」「セブンイレブンです」そして大谷海(うみ)さんを連想した「オーシャンです」との答えも飛び出した。
アルカイデ先生は2008年から同校の英語教員だが、同じく同僚の英語教員でありながら、すでに日本語クラスも担当していたパオロホセ・ラモス先生に勧められ、昨年5月から日本語の勉強を始めてJFMの日本語教師養成研修を受講している。
訪日研修も合わせ2年以上続く研修であるため、現在も「隔週でJFMによる日本語教育をオンライン受講している。夏期休暇には5週間の研修も」と明かした。現在は中学1年のみ日本語を教えているが、「日本の文化をはじめ、学ぶことすべてが新鮮で楽しい」と微笑んだ。
授業後、中学1年のヘーゼルジョイアン・フォンタニリャさん(12)は日本語授業が「とても楽しい。内容は簡単だ」と答えた一方、ジェニカ・ベルナルドさん(12)は「少しばかり難しい。特にカタカナが大変」とはにかんだ。
また、日本での中学2年~高校1年の日本語クラスを担当するラモス先生はこの日、高校1年の生徒20人に「この歌(手)知ってる?」「誰が好き?」といったやり取りを教えていた。ラモス先生が受け持つ科目は日本語、英語に(学内)ジャーナリズムまで加わる。生徒自身が学内イベントなどを取材して作る年一度発行の学内新聞も、ラモス先生の担当だという。
▽行きつけの食堂も
ケソンシティー高校でも日本語を週3日教えている大谷さんは、セルジオ・オスメーニャ・サー高校に通う日は「午前6時からの授業に間に合うよう、朝4時に起きてジプニー2台を乗り継いでいる。生徒も仲良くしてくれ、先生たちとも家族ぐるみの付き合いで、人と人との距離が近い」とNPならではの体験を語った。昨年のクリスマスには「ラモス先生の自宅に招待され、行ってみると親族40人ぐらいが集まっていて驚いた」と話した。
行きつけのカレンデリアでは、店主の女性に「たまに料理を教えてもらうことがある」そうで、好きなフィリピン料理にトルタン・タロン(茄子オムレツ)、魚や豚のシニガンスープを挙げた。ただ、「眠ろうとする夜9時ごろになると、決まって近所のお店でカラオケが始まる」との悩みも口にしていた。(岡田薫)