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在日比人二世の苦しみ描く 映画「世界は僕らに気づかない」 飯塚花笑監督インタビュー

[ 2407字|2023.1.8|社会 (society) ]

在日比人二世を題材とした最新作「世界は僕らに気づかない」が13日から日本で公開。本作を手掛けた若手映画監督・飯塚花笑氏に話を聞いた

Qシネマ映画祭で質問に答える飯塚花笑監督=11月24日、首都圏ケソン市(飯塚監督提供)

トランスジェンダーである自身の経験に根ざし、性的少数者(LGBT)の生を描く映画で高い評価を受ける若手映画監督・飯塚花笑氏による在日比人二世を題材とした最新作「世界は僕らに気づかない」が13日から日本で公開される。

 同作の主人公・純悟=堀家一希=は、母の偽装結婚、国籍問題、貧困と送金地獄、母子家庭、差別など日本生まれの比人二世が抱える諸問題を背負う、同性愛者だ。出自・セクシュアリティ(人間の性)の両面でマイノリティー(少数派)の純悟は、比人母を怒鳴りつけ、恋人には強引に体を求めるなど「尖った」人物として描かれる。本作は、そんな彼が家を飛び出し、まだ知らぬ父を探す旅を通じて成長する物語だ。

 昨年3月の「大阪アジアン映画祭」で「来るべき才能賞」を受賞するなど、内外で高い評価を得た同作を通じ表現したかったものについて、飯塚監督に聞いた。(聞き手は竹下友章)

 ―構想はいつから。

 最初の脚本は2013年に書いた。当初はセクシュアリティだけに焦点を当てていたが、東京都渋谷区の同性愛パートナーシップ条例=2015年制定=を巡る議論が出た時期に「LGBT」という言葉が一般化し、セクシュアリティを扱う映画も増えたため、原案では意味がないと思えてきた。

 その後、2019年に開催されたラグビーワールドカップで多くの帰化者が日本代表として出場したことに対し、世間では「これは日本代表か?」という声が「素朴な疑問」としてあふれた。こうした日本の「ナチュラルな差別」に気づいたことを機に、国籍・人種要素を取り入れようと構想を練り直した。

 ―比人二世を選んだ理由は。

 子どものころの原体験があった。自分の地元・群馬県は、外国人労働者が多い。小学校のころから身の回りに比人やブラジル人がたくさんいた。比人二世の友達の家に遊びに行くこともあったが、夕方に帰ろうとすると他の友達と違い寂しがる。彼らの母親は夜働きに出てしまうからなのだが、当時は事情が分からなかったし、違いを感じつつも触れられなかった。

 比人二世やブラジルにルーツがある子どもは転校が多く、それが勉強の遅れにつながる。大きくなると、当時は暴走族に入るなど非行に走る子が多かった。そうした中、外国ルーツの人たちに対する「怖い」という偏見が自分の中にも育っていった。劇中でも、主人公・純悟の母が、職場で中身の抜かれた財布が見つかったとき、外国人ゆえに疑われるシーンがある。これも実際にあった出来事に着想を得ている。

 ―どんな取材をした。

 最初は、比人二世の友達に話を聞いた。次にその母親のお店(パブ)に行き、他の店にも足を伸ばしていった。取材では偽装結婚の話もたくさん聞けた。比人ホステスたちは「偽装結婚相手と愛なんてないよ!とりあえず一緒に住んでるだけ!」と笑い飛ばしていたが、自分の身に置き換えると、つらい話だと思った。

 ―二世の苦しみがよく描かれている。

 二世の人たちに話を聞くと、母不在の寂しさや、自分と友だちの家庭の間の格差を感じていた。子どものころは母親が頑張って働いていることを理解できず、「なんで夜の仕事をしているんだ、なんで自分に愛情を注いでくれないんだ」というふうに、ある種の育児放棄と受け取る。

 劇中の回想シーンで、主人公が小学校に持っていった母手製のモンゴー(緑豆)スープの弁当を同級生に気持ち悪がられるシーンがある。それも実際の体験談に基づく。映画ではマイルドな表現にしたが、ある二世は「お前の弁当臭い」と言われていた。

 また、母親が家から顧客に甘い声で営業電話をかけたり、日本人男性を家に連れ込んだりといった「女」の面を見せることも二世たちにとってはつらい思い出。そんな母親を恥ずかしいと思い、隠す時期がある。

 そうした苦しみを、二世たちは「母親にどうしたら分かってもらえるのかが分からなかった」と言っていた。比人母は日本の学校事情や、難しい日本語が分からない。文化も違う。最終的に二世らは悩みを親に伝えることを諦める。

 ―登場人物に悪役がいないと感じた。

 あえて主人公・純悟を一番の悪役にした。登場人物を構想する際、「清く正しいマイノリティー」の脚本は簡単に書ける。でもそんな人なんて見たことないし、清く正しい人がさらなる聖人君子になっても面白くない。曲折あったが、最初は周りを敵視していた主人公が、最終的に「みんなの愛に気づいていないのは自分だった」と理解する話に行き着いた。少数派である主人公をある意味悪役にし、彼の成長、もしくは「更生」の過程を描くことにリアリティーと意味があると思ったからだ。

 ―パートナーとの関係の設定は。

 純悟は母との関係にいつもやきもきし、自分を愛してくれているパートナー・優助=篠原雅史=を無視している。この設定は比人二世(男性)のパートナーを持つ日本人女性への取材から出てきた。父親の違う下のきょうだい4人の世話で頭がいっぱいの彼氏は、普段構ってくれないが、家族のため借金などの助けが欲しいときだけ彼女を必要とする。こういう経験談に基づく。

 ―比国民に対してのメッセージは。

 単純に、日本に来て頑張って働いている女の子たちの苦労を分かってほしい。比にいる家族はお金を送ってもらって当然だと思い、送金が止まると怒るという話をたくさん聞いた。でも彼女たちはコロナ下でパブが休業中でもコンビニでアルバイトをして送金していた。

 ―二世を巡る状況は変わるか。

 性的少数者を巡る状況と同様に変われるはず。多様な性があるとの認識が広まると、少数派も表に出られるようになり、横のつながりができる。若い世代から「隠さなくていいんだ」「恥ずかしいことではないんだ」と意識が変わった。人種問題も同じだと思う。

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