「人権状況なお深刻」 国連人権理が比に是正勧告
国連人権理は比に対し超法規的殺害加害者の責任追及と活動家らの保護を勧告
国連人権理事会は14日、スイスのジュネーブでフィリピンに対する普遍的・定期的レビュー(UPR)を開いた。同理事会は、比国内の人権状況に「懸念がある」として麻薬撲滅政策(麻薬戦争)に関連した超法規的殺害・即決処刑の加害者に確実に責任を取らせる措置を講じるとともに、人権活動家、ジャーナリスト、法律家などを人権侵害から保護する法整備を行うよう勧告した。
16日の英字紙スター電子版などによると、豪州代表は比の麻薬戦争に関連した市民団体や活動家に対する「脅迫と嫌がらせ、広範で重大な人権侵害」への懸念を表明。また、比の国際刑事裁判所(ICC)脱退に遺憾の意を表した。その上で、マルコス政権に対しICCへの再加入、国連人権基準に合わせたテロ防止法の改正、「麻薬戦争」により親を失った子どもたちへの支援と賠償を勧告した。
ベルギー代表はまた、ジャーナリストや人権活動家、その他の市民への攻撃、脅迫、殺害に対する法規制を強化するよう勧告した。人権理事会は比に関するUPR開催に先立ち、人権活動家やジャーナリストに「共産主義者」のレッテルを貼る「赤タグ付け」の慣行廃止を含む人権擁護者保護法の制定を勧告している。
比代表団を率いUPRに出席したレムリヤ司法相は、先月殺し屋とみられる人物により殺されたジャーナリストのペルシバル・マバサさん殺害事件について、暗殺を指示した疑いのある政府高官(バンタグ前矯正局長)を「わずか17日で立件した」と報告。刑務所を管轄する矯正局内で「犯罪組織が深く根を下ろしていることが明らかになった」と説明した。
また同相は「国連勧告の実施、報告、再調査のためのシステムづくりを進め、市民団体や人権活動家との有意義な対話の場を提供することに取り組んでいる」と述べた。
しかし同相は以前、人権理事会で「赤タグ付け」について「このような活動家への(政府による)批判も表現の自由の一部だ」と発言している。
ドゥテルテ前政権では、公式統計でも6千件を超える麻薬捜査中の容疑者殺害が報告されたが、そのうち「不法な殺害」として立件されたのは約50件。マルコス現政権は容疑者への苛烈な取り締まりより予防と更生に重点を置いた麻薬撲滅政策を行うと宣言しているが、国家警察は現政権下で既に容疑者46人が捜査中に殺害されたと報告している。
UPRは2008年より、各加盟国に対し4年半に一度実施され、対象国が国連憲章、世界人権宣言、人権条約、自発的誓約、適用されうる人権法に準拠しているか審査する。
国境なき記者団が5月に公表した今年の世界報道自由度指数では、比は前年より9位下がり180カ国中147位。同団体は「比はジャーナリスト殺害が最も多い国の一つであり、特に女性ジャーナリストは性的暴行の脅迫、オンラインでの嫌がらせ、個人情報開示など性に基づく脅威にさらされている」と報告している。(竹下友章)