「地震で奪われる命ゼロに」 塗るだけの耐震材実証完了
JICA採択事業「耐震塗料による構造物耐震強靭化にかかる案件化調査」の結果が報告される
国際協力機構(JICA)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」採択事業である「耐震塗料による構造物耐震強靭(きょうじん)化にかかる案件化調査」の結果報告セミナーが20日、オンラインで開催された。同事業は、東大発スタートアップの「Aster」社が東大と協賛で開発した耐震塗料(パワーコーティング)が、比の建造物にも有効か確認することが目的。同社のラジャセカラン・シャンタヌ最高執行責任者(COO)らは、比で一般的な地震に弱い構造の壁に耐震塗料を塗った結果、阪神淡路大震災と同様の強さの揺れにも耐えられたとの検証結果を発表、「地震死者ゼロ社会」の実現に向けた同社の取り組みを説明した。
▽首都直下地震で死者3万
シャンタヌ氏は始めに1915〜2015年の100年間の全世界の地震による死者数集計結果を報告。全172万514人の死者のうち、79%に当たる136万927人がブロックなどを積み上げて作る「組積造」建設物の倒壊が死因だったとのデータを示した。
その上で、比では組積造の校舎が全国に80万棟あると指摘。さらに、首都直下型地震が発生した場合、「3万3500人が死亡する」というJICAの先行研究を紹介した。
またセミナーではJICAの楢府龍雄専門員が、13年に発生し222人の命を奪ったボホール州地震=マグニチュード7・2=の調査結果を報告。
同州サグバヤン町の町役場では、棚など内部の設備が転倒しない程度の揺れで庁舎外壁が崩れ落ちていたことなど、多数の事例を紹介し「建造物の脆弱(ぜいじゃく)さが顕著に見られた」と指摘。脆弱なコンクリートブロックを「最も緊急に対処すべき問題」とした。
▽欠陥建設が耐震建設超える
Asterの創設メンバーでもある東大の山本憲二郎助教は今回の実験の詳細を報告。
実験では、日本の施設で比の建設物の耐震強度を計るため、比から建設資材を輸入。公共事業道路省と協力のもと①比国内の耐震建設基準に準拠して作ったコンクリート壁②比基準を下回るが、比では一般的な壁③それに耐震塗料を塗布した壁――の三つを用意し、同じ振動を与えた。
その結果、一般的な壁は倒壊、建築基準に沿った壁は倒壊を免れたものの多数のヒビ割れが発生。一方、塗料を塗った壁にはヒビ一つ入らなかった。同助教は塗料が比国内基準に沿わない「欠陥設計」の壁を基準以上の強度にすることが実証されたと報告した。
また同助教によると、塗料は毒性もなく、通常塗料と同じように使え、台風に対する強度も高めることが可能。耐火性を追加した製品も作れるという。
JICAの坂本威午フィリピン事務所長は、同事業について「日本の優れた技術を比で展開することで、比の開発課題に貢献すると共に、日本振興企業の比進出を助けることを目的としている」と説明。その上で「既に比に進出している日本企業にとってもこの事業はビジネスチャンス。また、比で保有する施設・工場に導入することで、災害多発国である比での資産保全、被害予防ともなる」とし、比社会と日本企業双方にとってのメリットを説明した。(竹下友章)