電源構成に原発組み込み バタアン原発稼働も視野に
大統領は、フィリピンの電源構成に原子力発電を組み込む大統領令第164号に署名
ドゥテルテ大統領がフィリピンの電源構成(エネルギーミックス)に原子力発電を組み込むことを定めた大統領令第164号に署名したことが3日までに明らかになった。気候変動対策として石炭火力発電への依存から脱却するための国家エネルギー政策に原子力発電を正式に組み込むことを宣言したものとして注目される。30年以上凍結されてきたバタアン原子力発電所の稼働も含めた原子力利用が本格化する可能性もある。
同大統領令は2月28日に署名され、「環境負荷への考慮から反対運動が活発化している石炭火力発電の縮小に対処するため、再生可能エネルギーとともに、原子力発電を代替ベースロード発電として活用する」ことが記されている。また、「国は、公共安全、国家の安全保障、エネルギーの自給、環境の持続可能性を鑑みて、原子力技術の平和利用を確保しなければならない」と明記。さらに、原子力エネルギープログラム省庁間委員会(NEP-IAC)が、1986年から凍結されている比国内初で唯一建設されたバタアン原子力発電所の稼働の可能性と国内の他の原子力発電所設置について、すべての事業可能性調査や評価を行うことが求められている。
また、大統領令で、エネルギー省がフィリピンの国家エネルギー政策の一部としての原子力プログラムを開発、実施し、NEP-IACが機能するよう調整と支援を行う役割を課せられている。
クシー・エネルギー相は最近、今月6日までに米国で「原子力に関する協力協定」に署名する予定だとし、「比国内のエネルギー供給に対する信頼度向上が望めるだろう」と述べるなど原子力利用に前向きだ。
原子力発電の導入については、次期大統領候補者らの政策の争点にもなっており、モレノ氏は2日、バタアン原子力発電所の稼働に反対を表明したばかり。パッキャオ上院議員は2月、再生可能エネルギー開発を進める傍ら、水上原子力発電の新規導入が望ましいとしており、ロブレド副大統領は1月、化石燃料依存からの脱却を訴え、「原発についての議論にはオープンだ」との立場を示している。また、ラクソン上院議員は昨年11月、「原発は現実的な選択肢」と述べていた。
バタアン原子力発電所については、2018年のロシア企業による事業可能性調査結果から、稼働は不可能とされていた。また、20年10月には、ドゥテルテ大統領自ら、同原発跡地の再利用案を提案し協議も行っている。
エネルギー省とフィリピン原子力研究所(PNRI)は20年5月、原子力について国民の理解を広めるために、原子力技術に関する教育キャンペーンを展開。20年7月にはバタアン原子力発電所の再整備やロシアの海上浮揚式原子力発電所の導入などに関する調査の実施も盛り込まれた大統領令第116号に基づき、原子力エネルギープログラム省庁間委員会が設置され、12月には提言が提出されていた。
21年7月、エネルギー省は原子力発電所の国内候補地として、具体的な場所は伏せたまま15カ所を選定したことも明らかにしている。(深田莉映)