転換期を多角的に議論 東京五輪フォーラム
アテネオ大主催でオリンピックを多角的に議論するオンラインフォーラム
首都圏ケソン市のアテネオ大日本研究学科が「スポーツする日本─転換期にある社会の表出」と題したオンライン国際フォーラムを4〜6日まで開いた。東京オリンピックを中心に五輪のあり方や社会の変遷などが多角的に議論された。
▽コロナ禍と開催費増
パシフィック大政治と政府学部長のジュールズ・ボイコフ教授は、福島県を訪れて放射能がいまだに高く「復興から程遠い現実」を実感した。五輪について複数の著作がある同教授は、今回の東京五輪で日本国民の80%が開催の中止か延期を望んでいることについて、コロナ禍に伴う公衆衛生上の問題や開催費の大幅増などを反対の要因として挙げた。開催費は当初の73億ドルから260億ドルに増えた後、さらに延期で20〜60億ドルが上乗せとなると指摘した。
同教授は五輪に伴うジェントリフィケーション(下層居住地区の高級化)によって、16年のリオ五輪は7万7千人が住む場所を失い、08年の北京五輪では125万人が立ち退きを余儀なくされたことを紹介。開催国で監視カメラや顔認証システムの導入が進み、環境への配慮を取りつくろった「グリーンウォッシング」が横行することも問題だとした。
▽反五輪の会
ドイツ日本研究所のゾニャ・ガンセフォルト研究員は、19年2月に東京・渋谷の交差点で東京五輪反対のメッセージを掲げた教育関係者や芸術家ら数十人のグループ「反五輪の会」に焦点を当て、日本のオリンピック・アクティビスム(抗議行動)について報告。抗議行動は日常的なものではなく「サイレント・マジョリティー」からは「ださい」「反社会的」と見られる風潮がある。大手メディアに取り上げられることは少ない」とも指摘した。
同研究員によると、宮下公園や明治神宮外苑、都営霞ヶ丘アパートなど各地で五輪の名の下に再開発や浄化、公共スペースからの締め出しが進み、ホームレスや活動家らが公の場から締め出される事態が常態化しているという。
▽女性蔑視発言
国際交流基金マニラ日本文化センターの鈴木勉所長は、女性蔑視発言で森喜朗元首相が東京五輪大会組織委員長を辞任した問題や、五輪を「東北地方復興の象徴」とする政治的なメッセージを安倍晋三前首相が提示したことなど、五輪を取り巻く政治や社会の状況について発表。
1964年の東京五輪が現代アート展示空間としての側面を担っていたことにも触れた。
静岡大国際関係学部の高畑幸教授は、二重国籍を認めない日本で日系フィリピン人選手が抱えるジレンマの問題や、スポーツをめぐる日比の力関係などについて報告。また、第二次世界大戦前に野球の巨人軍で活躍、後に母国で抗日ゲリラとして戦死したアデアラーノ・リベラ選手をはじめ、柔道やボクシング、相撲、スケート、ゴルフなど日本で活躍してきた比人選手を紹介した。
質疑応答では「選手は政治論の板ばさみになっている」「五輪が開かれなくても、スポーツがなくなることはない」「五輪は今後、都市ではなく、国内の異なる場所か、いくつかの国に分散させる方法も専門家は視野に入れている」などの意見が出たほか、「今回の五輪は比人選手が初めて金メダルを獲得するのを見るチャンスだ」との声も聞かれた。(岡田薫)